「最新技術という、おもてなし」というキャッチフレーズとともに華々しくデビューした東海道・山陽新幹線の新車両N700系、次第に数も増えてきて見かける機会も増えてきました。これまでの新幹線のイメージを継承しつつ、走行性能・接客設備共に大きく進歩した車両となっておりますが、この車両はトイレについても「おもてなし」の心を感じられる作りとなっているのです。
様々な新技術が投入されたN700系ですが、東海道新幹線の車両として初めてトイレの全個室が洋式となったり、暖房便座が採用されたりと水回りについても新しい試みが散見されます。こと水回りの設備については300系から700系まで処理方式の真空化以外目立った進化がなく、暖房便座や温水便座、多機能水洗などを備えるJR東日本の車両にリードを許してきましたが、ここに来て大幅なキャッチアップを果たしています。
残念ながらJR東日本の新幹線(そして最近では東海道新幹線と並行する近鉄の新型特急Aceも)のような温水洗浄便座の導入は見送られましたが、N700系のトイレにはそれらの車両にはない独特の装備が奢られているのです。
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これがN700系のトイレの内部です。床がタイル敷きになり、300系以降の車両のいかにも「電車のトイレ」然とした樹脂パネル一色の空間からより通常のトイレに近い雰囲気になりました。壁面にはおなじみとなった便器洗浄を行うセンサー・・・、の下にさらにもう一つセンサーがあることに気づきます。横には「便座を下げる」とのステッカーが、確かに写真の通り便座は上がった状態です。半信半疑でセンサに手をかざすと・・・。便座が下がり、腰掛けられる状態になりました。しかし下がったはいいが、どこを探しても「便座を上げる」センサーがない、「まあ、いいか」と鍵を開けて外へ出ようとすると・・・今度は便座が自動で上がるではないですか!
公式サイトで「自動開閉便座」と紹介されているこの便座は、人が入ったときの初期状態を便座が上がった状態に保ち、必要に応じてセンサで便座を下げて使うという考え方で作られているようです。男性用の小便器が併設されている公共トイレの個室は腰掛けて使用する人がほとんどのため、便座が上がった状態でセットされていることはあまりありません。そのため、このトイレも初めて使用する際はちょっとした違和感があります。しかし、よくよく考えてみるとこの方式、なかなか良く考えられているなと感心させられます。
自動で開閉する便座のメリットといえば何といっても便座を手で触れる必要がないため、清潔感があるということです。これを実現させるためには次の3つの方法が考えられます。
1.N700系方式:必要な時だけ便座を下げて使う。
2.市販の温水洗浄便座方式:センサまたはボタンで便座を自由自在に上げ下げ出来る。
3.N700系の逆方式:必要な時だけ便座を上げて使う。
次に、便座の状態を利用者別に考えてみると、便座を下げるのは腰かけて使用する女性や男性の大用、上げるのは立って使用する男性小用であることがわかります。そしてそれらの利用者の中で便座を汚してしまう可能性がより高いのは・・・と考えるとやはり立って用を足すため狙いが定まりにくい男性小用ということになります。便座を清潔な状態に保つには立って用を足す人にしっかりと便座を上げて使用して頂く必要があると考えられます。
そう考えると前述の2.3の方法では便座の上げ下げが利用者の意思に委ねられるため、仕組みが分からない人や単純に面倒なので便座を上げない人など、全ての男性小用の利用者が便座を立てて使用することの確約がしにくくなります。一方、1の方式であれば個室に入った時点で便座が上がった状態が保たれているため、男性小用の方はそのまま利用すればよく、便座を汚す可能性は格段に低くできます。
この列車には小便器が別に設置されているため、腰かけて利用する人の方が立って利用する人よりも格段に多いはずです。このシステムはそういった多数派の人に一手間を強いてしまうという欠点はありますが、便座の清潔さという腰かけて使用する人が求める価値をシンプルかつ確実に提供していると言えると思います。
日本ではほぼ当たり前となっている便座がゆっくり閉まる機構がアメリカの旅客機メーカーに驚きをもって迎えられたように、日本のトイレに施されたちょっとした一工夫は世界の心を打つ可能性を秘めているようです。この装備も同様に、N700系に採用された他の新機軸のような「最新技術を駆使した…」という性格のものではないものの、利用者への清潔感の提供という日本ならではのおもてなしの心が表現されているものに仕上がっています。新幹線の海外輸出が話題となっている今日この頃ですが、視察に来た海外の方の心を打つのは案外こういったところだったりするかも・・・、と少し考えてしまいました。
ただやはりグリーン車だけでも温水洗浄便座は欲しかったところかもしれません。「おもてなし」の方は素晴らしいのですが、やはり「最新技術」の方をトイレでも見せてほしいと思います。それは今後の増備車に期待というところでしょうか。
それではまた。