今ほど司馬遼太郎の『坂の上の雲』が必要とされている時代はない

(「今ほど司馬遼太郎の『坂の上の雲』が必要とされている時代はない」というタイトルは、「ホッテントリメーカー」で作りました)
 NHKのスペシャルドラマ「坂の上の雲」が始まった。
 公式サイトの「企画意図」には「現代の日本人に勇気と示唆をあたえるドラマ」とある。

 21世紀を迎えた今、世界はグローバル化の波に洗われながら国家や民族のあり方をめぐって混迷を深めています。その中で日本は、社会構造の変化や価値観の分裂に直面し進むべき道が見えない状況が続いているのではないでしょうか。
「坂の上の雲」は、国民ひとりひとりが少年のような希望をもって国の近代化に取り組み、そして存亡をかけて日露戦争を戦った「少年の国・明治」の物語です。そこには、今の日本と同じように新たな価値観の創造に苦悩・奮闘した明治という時代の精神が生き生きと描かれています。
 この作品に込められたメッセージは、日本がこれから向かうべき道を考える上で大きなヒントを与えてくれるに違いありません。

 なるほど。ホントに「今ほど司馬遼太郎の『坂の上の雲』が必要とされている時代はない」のかも知れない。
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『文藝春秋』1998年8月号の「政・官・財・文化人大アンケート 二十世紀図書館」の「日本の本ベスト67」では、司馬遼太郎の『坂の上の雲』が1位になっている。それについて井上ひさしはこう言っている。

日本では『坂の上の雲』が1位です。これは分かるような気がします。戦前戦中の大日本帝国は植民地主義に凝り固まってアジア諸国にたいへんな迷惑をかけた。これはだれにも否定できない事実でしょう。だからこそ戦後は、三流国、四流国と呼ばれても仕方がないと考えながら生きてきた。当然、歴史学者たちも、そういう国民の思いを反映して、戦中戦前の日本を全否定する本を書いた。そうのうちに、そう思うことに、日本人自身が疲れてきた。そこへ絶好の救いの手があらわれたんですね。近代日本もその始まりは正しかったんだ、明治という時代は明るかったんだというふうに。この作品は、まさに絶妙なタイミングで世に現れたわけで、1位はうなずけます。

『坂の上の雲』は1968年から1972年まで連載されていたそうだ。その頃も必要とされていたが、日本人が疲れている現在も必要なのではないだろうか。


「日本の本ベスト67」を見てみよう。
1 司馬遼太郎『坂の上の雲』文春文庫
2 西田幾多郎『善の研究』岩波文庫
3 夏目漱石『吾輩は猫である』各社
4 梅棹忠夫『文明の生態史観』中公文庫
5 島崎藤村『夜明け前』岩波文庫
6 九鬼周造『「いき」の構造』岩波文庫
  永井荷風『断腸亭日乗』岩波文庫
8 吉川英治『宮本武蔵』講談社文庫
  和辻哲郎『風土』岩波文庫
10 夏目漱石『坊つちやん』各社
  丸山真男『現代政治の思想と行動』未来社
  宮沢賢治『銀河鉄道の夜』各社
  森鴎外『渋江抽斎』中公文庫
14 日本戦没学生記念会編『きけわだつみのこえ』岩波文庫
15 大岡昇平『レイテ戦記』中公文庫
  夏目漱石『こころ』各社
  柳田國男『遠野物語』各社
18 遠藤周作『沈黙』各社
  岡倉天心(覚三)『茶の本』岩波文庫
  川端康成『雪国』岩波文庫
  中里介山『大菩薩峠』ちくま文庫
  埴谷雄高『死霊』講談社
23 大岡昇平『野火』新潮文庫
  志賀直哉『暗夜行路』各社
  三島由紀夫『豊饒の海』新潮文庫
  与謝野晶子『みだれ髪』角川文庫他
27 倉田百三『出家とその弟子』新潮文庫
  塩野七生『ローマ人の物語』新潮社
  司馬遼太郎『街道をゆく』朝日文庫
  太宰治『人間失格』各社
  谷崎潤一郎『細雪』各社
  夢野久作『ドグラ・マグラ』各社
  吉本隆明『共同幻想論』角川文庫
34 石光真清『曠野の花』を含む四部作 中公文庫
  石牟礼道子『苦海浄土』講談社文庫
  井伏鱒二『黒い雨』新潮文庫
  大江健三郎『万延元年のフットボール』講談社文芸文庫
  斎藤茂吉『赤光』各社
  鈴木大拙『禅と日本文化』岩波新書
  谷崎潤一郎『陰翳礼讃』中公文庫
  谷崎潤一郎『春琴抄』各社
  永井荷風『墨東奇譚』各社
  中島敦『李陵』各社
  萩原朔太郎『月に吠える』各社
  丸山真男『日本政治思想史研究』東京大学出版会
  三島由紀夫『金閣寺』新潮文庫
  柳田國男『海上の道』ちくま文庫他
48 有島武郎『或る女』各社
  石川啄木『一握の砂』各社
  伊藤整『日本文壇史』講談社文芸文庫
  今西錦司『生物の世界』講談社文庫
  岡本綺堂『半七捕物帳』光文社文庫
  河上肇『貧乏物語』岩波文庫
  小林秀雄『無情といふ事』新潮文庫
  小林秀雄『モオツアルト』新潮文庫
  司馬遼太郎『竜馬がゆく』文春文庫
  津田左右吉『文学に現はれたる我が国民思想の研究』岩波文庫
  土居健郎『「甘え」の構造』弘文堂
  徳富蘇峰『近世日本国民史』講談社学術文庫
  中根千枝『タテ社会の人間関係』講談社現代新書
  夏目漱石『明暗』各社
  花田清輝『復興期の精神』講談社学術文庫
  宮沢賢治『春と修羅』各社
  山田盛太郎『日本資本主義分析』岩波書店
  山本七平『私の中の日本軍』文春文庫
  山本周五郎『樅ノ木は残った』新潮文庫
  和辻哲郎『古寺巡礼』岩波文庫
ついでに「海外の本ベスト67」も。
1 J.M.ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』東洋経済新報社
2 魯迅『阿Q正伝』各社
3 S.フロイト『精神分析入門』各社
  G.ガルシア=マルケス『百年の孤独』新潮社
5 A.カミュ『異邦人』新潮文庫
  R.カーソン『沈黙の春』新潮文庫
  F.カフカ『変身』各社
  M.プルースト『失われた時を求めて』ちくま文庫
  R.ロラン『ジャン・クリストフ』岩波文庫
  M.ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』岩波文庫
11 T.マン『魔の山』岩波、新潮
12 J.ジョイス『ユリシーズ』集英社
  M.ミッチェル『風と共に去りぬ』新潮文庫
14 P.バック『大地』各社
  W.チャーチル『第二次世界大戦回顧録』河出文庫
  M.デュ=ガール『チボー家の人々』白水社
  V.E.フランクル『夜と霧』みすず書房
  J.A.シュンペーター『経済発展の理論』岩波文庫
19 R.ベネディクト『菊と刀』現代教養文庫
  J.P.サルトル『嘔吐』人文書院
  A.トインビー『歴史の研究』社会思想社
22 A.ソルジェニーツィン『収容所群島』新潮文庫
  F.カフカ『審判』各社
  J.P.サルトル『存在と無』人文書院
  ユン・チアン(張戎)『ワイルド・スワン』講談社文庫
26 E.ヘミングウェイ『老人と海』新潮文庫
  G.オーウェル『1984年』ハヤカワ文庫
  E.M.レマルク『西部戦線異状なし』新潮文庫
  O.シュペングラー『西洋の没落』五月書房
  J.スタインベック『怒りの葡萄』岩波、新潮
31 A.ジイド『狭き門』各社
  H.ヘッセ『車輪の下』各社
  J.ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』中公文庫
  F.カフカ『城』各社
  P.ケネディ『大国の興亡』草思社
  毛沢東『毛沢東語録』平凡社ライブラリー
  J.オルテガ=イ=ガセット『大衆の反逆』角川文庫
  サン=テグジュペリ『星の王子さま』岩波少年文庫
39 J.L.ボルヘス『伝奇集』岩波文庫
  S.ボーヴォワール『第二の性』新潮文庫
  A.クリストフ『悪童日記』早川書房
  M.フーコー『言葉と物』新潮社
  G.グラス『ブリキの太鼓』集英社文庫
  M.ガンディー『自叙伝-真理の実験』中公文庫
  A.ヒトラー『我が闘争』角川文庫
  E.ヘミングウェイ『武器よさらば』各社
  J.ホイジンガ『中世の秋』中公文庫
  F.A.ハイエク『隷従への道』春秋社
  D.H.ロレンス『チャタレイ夫人の恋人』新潮文庫
  S.モーム『人間の絆』新潮文庫
  M.マクルーハン『人間拡張の原理』竹内書店新社
  J.P.サルトル『自由への道』人文書院
  A.トフラー『第三の波』中公文庫
  M.ウェーバー『職業としての学問』岩波文庫
55 F.ブローデル『地中海』藤原書店
  W.ベンヤミン『複製技術時代の芸術』晶文社
  C.チャップリン『チャップリン自伝』新潮文庫
  R.チャンドラー『長いお別れ』ハヤカワ文庫
  A.カミュ『シーシュポスの神話』新潮文庫
  A.ソルジェニーツィン『ガン病棟』新潮文庫
  J.ドス=パソス『U.S.A.』岩波文庫
  W.フォークナー『八月の光』新潮文庫
  M.ハイデガー『存在と時間』岩波文庫
  T.マン『ブッデンブローク家の人びと』岩波文庫
  R.M.リルケ『マルテの手記』各社
  L.ヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』法政大学出版局
  M.ウェーバー『経済と社会』みすず書房
 有名な本がたくさん並んでいる。
『坂の上の雲』の得票が32で、2位の『善の研究』の得票は22である。この差で1位というのは凄い。だから『坂の上の雲』は読んでみようと思っていたが、読まずに現在に至っている。でも、ドラマを観れば本は読まないでもいいかな。
「政・官・財・文化人大アンケート 二十世紀図書館」を読んでいたら、こんなことが書いてあった。

「よきナショナリズムと危険なパトリオチズムの境界の危うさを著者は知っていて、ついに映像化の許しを得られなかった」(今野勉・演出家)

 司馬遼太郎は映像化を許さなかった。
 じゃあ、著者が亡くなってからも映像化はしない方が良いのではないだろうか。そんな気がした。
 ドラマは観るつもりだけど。
 

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