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2008年12月19日

北千住「天七」で、串揚げとキャベツと四方山話の夜

 もう、結構前のことになるが、振り返っておこう。

 10月の3連休初日、いろいろあって休日出勤せざるを得なくなり会社に行った日の飲酒記録である。

▼こんなに天気が良い土曜日だった

 仕事は20時前になんとかひととおり完了。人がほとんどいない夜の外堀通りを歩きながら、酒を飲んで区切りをつけなくてはやってられない心持なった。とはいえひとりでどっぷりと酒を飲みたいわけではなくほろ酔い、つまりほどよく気持ちいい気分で家に帰りたい、そうさせてくれる店に行こう、なんて思って北千住駅で下車して串揚げの「天七」へ向かったのだった。

  「天七」は北千住駅を下車し、西口を背中に右側の路地の入り口にある。

▼これが外観である

 大阪によくある串揚げ屋さんと同じスタイルの店である。ソースは二度付け禁止。キャベツは食べ放題。みんなサクっと飲んでサクっと帰る。灰皿はないがみんなタバコを吸っている。なぜか。みんな床に吸い殻やら灰を落としている。そんな店である。

▼とりあえず、ビールを一杯。

 タマネギ・若鶏・チーズを頼む。この店は2本からの注文になる。

 揚がるまでは、ソースをかけたキャベツでビールを流し込む。

 一人で飲むというのは、なかなか良い。スポーツジムに似た居心地の良さを感じてしまう。基本的に個人行動主体のスポーツジムでは、自分がするべき運動を黙々とやり続けているもの。だがしかし、「運動する」という同じ目的をそのフロアにいるみんなと共有しているから別段寂しくなんかない。同じ目的を共有しながらそれぞれが自由なことをしている。その状態が非常に心地良いのである。

 この構造は立ち飲み屋でも同様だ。訪れる客はそれぞれ異なる事情でこの店に来訪しているはずだが、酒を飲む・揚げ物を食う・キャベツをかじるという目的を共有しながら、それぞれが思い思いにふけっている。やはり、「一人だけどさびしくない」のだ。

 コの字型テーブルの周囲を囲むように客がたたずむというのは、トレーニングしている他人の姿が自然に自分の視界に入るジム同様、左右どちらでも振り向けば、知らない客が同じ目的で飲食しているわけで、やはりなんか心地よいのである。さらに私の立ち位置の正面には大きな鏡があり、そこに自分が写り込んでいる。己の姿を見ながら酒を飲むことになった。鏡越しにうつるその景色は、あたかも「最後の晩餐」のようだ。場末の酒場なのに、なんだか高貴な気分。

 そのうちなんか酔いが手伝い、この飲酒空間を構成しているみんなが仲間であるような気がして、一人勝手にグルーヴィに。みんな良い奴らだなあなんて錯覚するようになってきた。飲酒によって左脳の働きが抑制されることで、右脳の機能が私の身体のなかでフィーチャーされているのかもしれない。「己」の存在が溶け出し皮膚の外へ流出、同様に流出しているおじさんたちと、コの字テーブルの対角線の交点上空で混交するようなイメージ。脳内で作られるイメージ連鎖が加速するのだ。そういえばジムで走っているときも、隣で走っている女性に勝手にその瞬間だけ恋心を抱いてしまうようなことがあったが、同じようにランナーズハイによって、「己」が溶け出し、勝手に混交するイメージを持ったのかもしれない。やっぱり似ている!

▼なんて思っているうちに揚げ物がやってきた

 揚げ物なのにまったく油っぽさがなく、とてもあっさりしている。さくさくで非常においしい。

 そのうち、隣に杖をついたおっさんがやってきた。揚げ物を2~3頼み、日本酒を頼んでいた。頼んだ揚げ物ならびにキャベツに全くソースをつけず、塩をかけて食べていた。素材の味を愉しみたいのだろうか。そんなこのおっさんの振る舞い「粋」を感じてしまった。その矢先、このおっさんに「お話してもいいですか」といわれ、世間話に。

 なんでもこのおっさん、若いころの暴飲暴食がたたり、50才を過ぎた頃脳梗塞に罹ってしまったという。今ではその後遺症で、杖なしには歩けない状態になってしまったらしい。若い頃は営業を生業としており、肉・肉・肉・酒で野菜など一切食べなかったため、こんな身体になってしまったと、自己分析していた。だから今では節制し、ほとんど野菜しか食べない生活らしい。たまにこの店で揚げ物を食べるのが楽しみなのだという。足立区の某エリアからバスでやってくるらしいが、その不自由な身体でどれだけ時間がかかるのだろう。

 野菜生活に切り替えた結果、野菜に強いこだわりを抱くようになったという。そんなおっさん曰く「ここのキャベツはいいキャベツを使っている。だから、あなたもたべなさい」を言われ、私もたくさんのキャベツを食べた。「やっぱりキャベツは群馬が一番」といいながら「オヤジさん、ここ、キャベツおかわり」と私の代わりにおかわりをしてくれた。(そもそも無料なのだけど)

 そのとき既に麦酒2杯飲んでいたので、レモンサワーに切り替えてさらに話を聞いた。

 おっさんの息子は某工業大学を卒業したものの、定職に就かず「オタク」化しているといい、将来を憂いでいた。「パソコンいじっているんだけどよくわかんねぇんだ」という。複数の友人がよく家に来るのだが、挨拶もろくにせずいつも部屋に籠もり、あとは何やっているかわからない状態という。とても心配していた。私にいえるのは「そのうちわかるんじゃないですか」ということだけ。コップにたまった水があふれるようなもので、ある程度そういう状態を維持しているとそのうち飽きてきて、別のことを考えるようになりますよ。そのときまで待ったら良いんじゃないですか、なんて言おうと思ったが、ほどよい酔いのせいか言語化が面倒くさくなって言うのをやめた。

話すだけ話したおっさん「じゃあこの辺で」といって、私と握手したらそのままさくっと帰っていった。

おっさんが帰った後、言いはぐってそのまま飲み込んでしまった言葉を思い出して、自分に当てはめてもう少し考えてみた。正面には鏡。レモンサワーを飲む自分が写っていた。


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