ここ何回かは、大石真人のことを書いてきた。
(「大石真人『全国いで湯ガイド』(山と渓谷社1971年)の温泉リスト」
「大石真人『全国温泉ガイド200選』(実業之日本社1994年)の温泉リスト」
「大石真人『温泉の文化誌』(丸善ライブラリー)の「温泉ガイド100選」」)
そこで、『全国いで湯ガイド』(山と渓谷社1971年)には載っているが、『全国温泉ガイド200選』(実業之日本社1994年)や「温泉ガイド100選」(『温泉の文化誌』丸善ライブラリー1995年)には載っていない温泉に行ってみたいという気持ちが湧いてきた。
また、私が、大石真人を知ったのは、つげ義春と正津勉の対談(『つげ義春旅日記』旺文社文庫1983年)を読んだからである。
だから、つげ義春も行ったことがある温泉に行きたい。
しかも、近場が良い(原付で行きたいから)。
以上の条件をまとめると、
①『全国温泉ガイド200選』「温泉ガイド100選」に載っていないが、『全国いで湯ガイド』に載っている温泉(つまりマイナーな温泉)
②つげ義春が訪れた温泉(つまり鄙びた温泉。そればっかりじゃないけど)
③我が家から近い(原付で日帰りの範囲)
で、思いついたのが、秩父の温泉か丹沢の温泉。
つげ義春は、「秩父の鉱泉と礼所」(『つげ義春の温泉』カタログハウス2003年)で秩父の柴原温泉に行ったことを書いている。ここは山口瞳も訪れている(『温泉へ行こう』新潮文庫1988年)。
大石真人の評価は★★★である。
ちょっと遠いので、今回はパス。
丹沢の塩川温泉。
大石真人の評価は★★。
ここは前に行ったことがある。
それで、今回行ってみることにしたのは、丹沢の別所温泉である。
大石真人の評価は★★★。
『全国いで湯ガイド』にはこんな紹介がある。
東丹沢のまんなかにある素朴な谷間の湯。そのわりに便利で、東京 横浜から近い。相模川支流小鮎川の中流にあたり、もはや谷にせまったところである。
(略)
湯はやや赤い含重曹炭酸泉。渓間屋の湯は同一棟内にあるが、元湯の湯は沢向こうの別棟になっている。
よくあたたまる湯で、湯ざめがしない。
渓間屋は廃業していて、現在は元湯旅館しかない。
また、つげ義春は「丹沢の鉱泉」(『つげ義春の温泉』カタログハウス2003年)でこう書いている。
その人家より一段下がった沢の底に、元湯旅館と渓間屋の二軒がくっついて並んでいる。沢といっても幅は一メートルほどで水は澄んでいるが、ただのドブ川を見るようで風情も何もない。人家に囲まれて景色はまことにつまらない。元湯旅館のほうは改築してきれいだが、渓間屋はまったくの田舎宿。道から一段下っているので、二階の窓を通して客間が見え、畳が傾いている。反対側の窓の方に回ると、沢をはさんで竹薮が宿に覆いかぶさり蜘蛛の巣だらけ。斜め向いに墓場。やりきれないほど侘しい。近くに飯山鉱泉、七沢鉱泉があるから、こんな侘しい所に泊る者はいないのではないか。しかし、暗くて惨めで貧乏たらしさに惹かれる私は、穴場を発見したようで嬉しくなった。屈託したときはここへ来て、太い溜息でもつくには格好の所である。自分が宿屋業をするときは、こういう感じでやりたいと思った。
(このエッセイでは、つげ義春は別所温泉に泊まっていない)
このような温泉である。
今回、原付で行こうと思ったのは、原付を手放そうか迷っているからである。
もうすぐ保険が切れる。さらに、今駐輪しているところが、来年からなくなってしまう予定である。
保険を更新すべきか、原付を降りるべきか。
原付は大学生のとき通学用で買ったもので、卒業後はほとんど乗っていないのだが、それがなくなるかもしれないと思うと、なぜか乗りたくなる。
消えゆくものに惹かれるのだろうか。
大学生のときは、もっぱら実用的に、つまり手段として乗っていたのだが、今回は楽しく、目的的に原付を使ってみたいと思った。
9月のある火曜日、遅めの夏休みをとり、別所温泉に向かった。
10時半くらいに出発。
ちょっと遠回りになるが、「おお我が母校」の前を通ってみた。
大学のすぐ前にセブンイレブンが。
そして小倉橋を渡る。
手前が小倉橋で上に見えるのが新小倉橋。
私が大学生の時、新小倉橋は建設中だった。
ずっと建設中だった。
きっと、これからもこのままなんだろうなぁ、となんとなく思っていた。
それが数年前、完成していた。
新小倉橋を渡った方が早いのかもしれないが、私は小倉橋を渡った。
この小倉橋は道幅が狭い。
だから交互通行になっている。
しかし、信号機も何もなく、ドライバーの判断で、行き交いする。
ここが素晴らしいと思うのだ。
きっとジェントルマン用の橋なのだ。
原付を快適に走らせ、12時半、別所温泉に到着。
とりあえず、清川村ふれあいセンター「別所の湯」に行ってみると、休館日だった。
坪内祐三も定休日男らしいが、私もである(※1)。
居酒屋に行ったら閉まっていたなんていうことはしょっちゅうある。
しかし、「別所の湯」は、そのホームページを見ると、「当センターは、丹沢の源流を水源とする清川ならではの水を使用しています」とあり、温泉施設ではないようだ。
ここには入れなくてもかまわない。
それで、本題の湯元旅館に入ってみた。
旅館のおばさんは食事をしているようだった。
「日帰り入浴したいんですが・・・」
と言うと、おばさんは少し困った顔をして、
「お客さんがいないときは、沸かしてないんですよ」
と言われた。
残念。
でも、これも鉱泉らしいか、とあきらめた。
平日の昼間に来た私も悪いのだ。
さて、じゃあ、他の温泉にでも行くか。
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(※1)
坪内祐三『酒日誌』(マガジンハウス2006年)
(知る人は知るように私は定休日男である)