金沢旅行の帰り、松本で1泊した。
松本で1泊したのは、金沢と立川の中間位だったからで、特に積極的な理由はない。
しかし、松本で蕎麦でも食べたいな、となんとなく思っていた。
松本には蕎麦屋がたくさんあるらしい。
私が行ってみたいと思ったのは、「もとき」と「野麦」。
元帝国ホテル総料理長の村上信夫は「もときのそばには心がある」と言っているそうだ(中公文庫編集部編『そば読本』中公文庫ビジュアル版1996年)。
また、里見真三はもときの蕎麦についてこう書いている。
不思議なほどの透明感を漂わせた近在産の手打ち(二枚重ね)が、短く切れている。ハテナ? とクビを傾げた探偵に店主、「よくつながっているのは粉の悪い部分を使っているからで、いいのは切れるんです」。「?」。「蕎麦の香りって言うけど、あれは、米なら糠に当るものが発する匂いです。いい粉が持っている”あってなきが如き香りと甘さ”を感じ取るのが本当の蕎麦好き」。
(麺`sCLUB編『ベストオブ蕎麦』1992年)
野麦については、杉浦日向子が。
透明感のある細打ちの麺と、軽いがしっかりとしたかえしの爽快なつゆは、きちんと生きるということは品格をそこなわずに日々を暮らすことだという、ガラにもない殊勝な気持ちにさせてくれるに充分な存在感を呈する。
憩う、とは、ただのんべんだらりと時を過ごすことではない。余分なものをそぎおとして、素になるときこそが、憩いであろう。野麦で憩う。ソバが好きで、ほんとうに良かったと、必ず実感できるであろう。
(杉浦日向子とソ連編著『もっとソバ屋で憩う』新潮文庫2002年)
この2店は、太田和彦も『ニッポン居酒屋放浪記立志篇』(新潮文庫2000年)で訪れている。
松本に着いたのは、6時過ぎ。
もときの営業時間は3時まで。野麦は5時ごろまでで両方とも閉まっている。
また今度にしよう。
(後でネットで調べたら、もときはいったん3時に閉まって、5時半から8時にまた営業するようになっていた。でも大手から開智に移転しているみたいなので、行ってもたどり着けなかったかも知れない。野麦は2時ごろまでに短くなっていた)
ところで、松本は太田和彦の故郷である。
しかし、松本の居酒屋はよく知らないと言う。
『ニッポン居酒屋放浪記立志篇』にはこうある。
私は大学へ入ると同時に東京に住みつき、もう東京暮しの方がはるかに長くなった。松本は高校までだから居酒屋を飲み歩いたりしたことはない。年に一、二度帰るときは両親に会うためなので居酒屋へは寄らない。結局故郷の居酒屋はよく知らないのである。東京の居酒屋の本まで書いたが松本は知らない。
『太田和彦の居酒屋味酒覧(第一版)』(新潮社2004年)に、松本の居酒屋は、きく蔵だけが載っている。
しかし、2008年に出た『第二版』になると、きく蔵が載っていない。
『第二版』では64店を新収録しているが、全体の掲載数は172店から173店と1店しか増えていないので、63店が落ちてしまっている。
きく蔵はその中の1店ということになる。
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『第一版』の表紙の下のほうに「北海道から沖縄まで、前人未踏の全県踏破を達成。」とある。長野県はきく蔵の1店しかない。
もしかしたら、「全県踏破」を謳うために、無理やりに載せた店なのではないか。
『第二版』では全県踏破主義をやめたので、載らなくなったのではないか。
つまりは、あまり期待できない店なのではないか。
などと考えてしまった。
しかし、他に店を知らないのできく蔵に行ってみることにした。
店に入ると、
「ミシュランを見て来たんですか?」
と聞かれた。
私のカバンから『居酒屋味酒覧』が見えたらしい。
「ええ」
と答えた。
「第二版には載ってませんねぇ」とは言えなかった。
その『居酒屋味酒覧(第一版)』にはこうある。
代表は春の山菜、秋の地きのこに馬刺。松本ではスーパーや精肉店で普通に馬肉を売っている。地元では赤身が好まれるが、ここはお客用に霜降りを生姜醤油だ。
(略)
私はここで飲んでいると懐かしい松本方言が肴だ。故郷を離れて四〇年。あなたも故郷の居酒屋を訪ねてみませんか。
お通しに鯨の皮が出た。
お酒は、大雪渓を飲んだ。
そして、馬刺を注文。
旨い。
期待できないとか書いてスミマセンでした。
↑馬刺と鯨の皮
お客はみんな地元の人のようだった。
となりのおじさん(お爺さん?)はおいしそうに芋焼酎の吉兆宝山をロックで飲んでいた。
お代わりするとき、氷を2つにしてくれ、と注文した。
氷を少なくして、焼酎を多くする作戦なのだろうか。
かなり酔っぱらっていた。
壁に貼ってあるメニューに「うしびて」というのがあって、これは何かと聞くと、きのこだという。
太田和彦も「秋の地きのこ」だと言っているのでこれを注文した。
すると、となりの酔っぱらいお爺さんが、「苦味があって酒の肴にちょうどいいんだ」と教えてくれた。
↑うしびて
私も、酔っぱらいお爺さんに倣って、吉兆宝山を飲んで、お代わりのときに「氷2個で」と言ってみた。
3杯目のお代わりのときに、主人に「氷2個にしといたよ」と言われた。
地元の酔っぱらいお爺さんと少し話し、主人に氷を2個にしてもらう。
こういうことができると、すごくうれしくなる。
宿からきく蔵まではすごく遠く感じたが、帰りは少し近く感じた。
金沢①「行き道」
金沢②「山口瞳の行きつけの店、つる幸に行ってきた」
金沢③「山口瞳の行きつけの店、倫敦屋でジントニックを飲んだ」
金沢④「太田和彦の金沢一のひいき店、浜長で飲んだ」
金沢⑤「兼六園、金沢21世紀美術館に行った。鮴と鰯で飲んだ。」
金沢⑥?「白川郷とラムネ問題」
金沢⑧?「浅間温泉につかり、帰路についた」