大小 vs STOP

「水を大切にしましょう」物心ついた頃から今に至るまで生活のあらゆるところで見聞きする普遍的な標語であり、私たちの頭に完全に叩き込まれているかのようです。それを証明するように、さまざまな節水グッズやトイレのタンクにペットボトルを入れることなどに代表される「節水の知恵」が日々生まれては消えています。同様に、処理に多量の水を使う水洗トイレのこれまでの進化も節水へのあくなき追求の歴史だといっても過言ではないでしょう。かつては洗浄に16Lの水を必要とした現在主流のサイホン式便器も20年ほどの歳月を経て半分以下の6リットルの水量で洗浄ができるほどに進化しました。
洗浄水量の大幅な削減に加えて小さいながらも重要な変化が洗浄水量の大小切り替え機能です。現在の便器では小洗浄の際は大洗浄よりさらに1~1.5Lほどの節水となるものが多いようです。以前はサイホン式やサイホンゼット式の便器には付いていないことが多かったのですが、現在では当たり前のように各社の便器に付いています。洗浄水量が大幅に削減されたとはいえ、小用を大を流せる水量で洗い流すのは無駄との人々の意識の表れでしょう。トイレにおける節水はメーカーの技術革新によるものだけでなく、そこに私たち一人一人の無駄な水量を省こうとする意識が加わって達成されるものであり、それをある程度実現するためにあるのが大小切り替え機能だと言うことができます。
環境に対する意識が高いといわれているヨーロッパ諸国も日本人と同じく節水に熱心なようで、街中で見かける便器のほとんどには大小切り替え機能が付いていました。しかし、同時に日本ではお目に掛からない少し違った方法で人々の節水意識に応えている便器も相当数発見したのです。今回はそんなもう一つの水量節約機能についてのお話です。



比較的新しいヨーロッパの公共トイレは上の写真のように壁掛け式の便器にやや高めの位置に付けられた洗浄ボタンという組み合わせであることが多いです。洗浄方式はほぼ100%洗い落とし式で、どれも「ジャー」という勢いのある音がします。洗浄ボタンは押しやすいように大きくデザインされており、この便器のような大小切り替え機能を備えたものでは大洗浄と小洗浄が視覚的に一瞬で分かるようにボタンの大きさが異なっています。シンプルな洗い落とし式であることもあいまって大洗浄と小洗浄で流れる水量の違いがはっきりと実感でき、効果を実感できます。

さて、こちらも先ほどの写真の便器と一見同じような作りをしているように見えます。でも洗浄ボタンにご注目を。先ほどの大小切り替え式の便器のようにボタンが上下に2分割されていていますが、ボタンの大きさが一緒なのです。そして上のほうのボタンにはなにやら文字が書かれています。よくよく見るとそこには”STOP”の文字が…。もうお分かりでしょうか、この便器はSTOPボタンを押すことによって任意で水流を止めることができるようになっているのです。下のボタンで洗浄を開始した後、「そろそろいいな」という頃合いで上のSTOPボタンを押すことによって水流が止まり、その分節水になるというものです。
ヨーロッパ各国のトイレを回ってみた印象ではやはり大小切り替え式の方が数は多かったですが、こちらも決して少数派というわけではなく、大小切り替え式に対する第二の勢力と言えるほどちらほらと見受けられました。STOPボタンが設けられているものの他に洗浄ボタンを二回押すことによって水流が止まるようになっている個体も発見しました。
肝心な使用感についてですが、私個人の意見としては大小切り替え式のほうが使いやすいと感じました。STOPボタンを押すことによって確かに水流は止まるのですが、やはり水も急には止められないのかボタンを押した後にチョロチョロと余韻のように水が流れてしまうのが使っていてあまり気持ちの良い印象ではありませんでした。また、私のように小用の流し残しを嫌う人の場合、早くSTOPボタンを押してしまうと流し残しが発生するし、かといって時間をおいて押せば効果が得にくいということでSTOPボタンを押すタイミングを計らなくてはいけない点を面倒と感じるのではないかと思いました。その点で「小用ならこれだけの量流せば大丈夫」というメーカーからのお墨付きがある小洗浄ボタンが設けられているほうが使いやすいかなと感じた次第です。
以上の私の個人的な感想から、大小切り替え式よりもSTOPボタン式が向いている人の人物像は実用上問題なければ少しの流し残しは気にせず、機械に動かされることを嫌い、自分の意思によって機械を操作することを望む人ではないかと考えられます。そしてその人物像に当てはまる人はヨーロッパには比較的多いように思います。そのことは例えばパリをはじめとするヨーロッパ各都市の地下鉄では駅に着く際に自動でドアが開かず、降りたい人(または乗りたい人)がドアに取り付けられたボタンを押してドアを開けるという方式がとられていたり、日本では新車のほぼ90%がオートマ車というこのご時世に未だMT車が主流なことなどからも伺えます。どちらも日本では機械任せにされている部分ですが、あえて手動にこだわっているのはおそらくかの地ではその方が合理的と考えられているのでしょう。「誰も利用しないドアを開けても車内の冷気または暖気が逃げるだけ」「MT車のほうが燃費も加速もいい」という考え方をする人が多いのかもしれません。それならトイレについても「ある程度流れたならすぐ止めてしまったほうが節水になるじゃないか」と考える人がいてもそれほど不思議ではありません。私の考察が正しければヨーロッパの人々はSTOPボタン式の便器に遭遇した際はかなり早い段階でSTOPボタンを押して大幅な節水を実現させているということになりますが、これの実証はいつか再びかの地に赴いた際の(何年先になるかわかりませんが…)目標にしたいですね。
それではまた。
<今回紹介したトイレ>
大小切り替え式の便器があるトイレ
アテネ シンタグマ広場付近のヌードルバー
STOPボタン式の便器があるトイレ
アテネ国際空港

衛生陶器愛好家の、トイレ巡礼