さて、チューリッヒで美しい街並みと興味深いトイレを堪能しながらデュッセルドルフでのクロス・オ・マットとの対面に心を躍らせていた私ですが、実はチューリッヒの街でも「もしかしたら…」とクロス・オ・マットとの突然の出会いを期待していました。なにしろここはクロス・オ・マット社のお膝元、スイス。街の商業施設などのトイレにドンと置かれていてもおかしくない、いや置かれていて欲しいと思ったのです。そしてその期待は現実のものとなったのです…。
ほのかな期待を抱いて入ったスーパーマーケットや家電量販店などが入居する商業施設…。その多目的トイレの扉を開けると…。
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ありました!以前住んでいた学生寮にあったものと同じ型のクロス・オ・マットです!茶色という独特のボディーカラーが渋いです。フラッシュを焚いたため写真ではわかりませんが、トイレ内で麻薬を打たせないようにするためか真っ青な照明が照らす不気味な空間でいざクロス・オ・マットの洗礼を…!
「???」
この個体は学生寮にあったものと同じ問題を抱えているようです。タンクに付いているスイッチに肘を当て、少しお尻に力を入れ衝撃に備えるも私のお尻は水の感触を得ません。スイッチに肘を当てている間、なにやらチョロチョロと水の流れている音が聞こえるのですがノズルが出る気配がないのです。ポンプが壊れているのでしょうか。仕方なく私はこの場を後にしました。クロス・オ・マット体験はデュッセルドルフに渡る翌日にお預けと相成りました。この他にもいくつかの商業施設に入りましたが、日本における百貨店に相当するようなより高級なお店では多目的トイレに鍵がかかっていることが多く、設置されているかどうか確認できませんでした。しかし、庶民的なスーパーマーケットに設置されているということは、より高級な百貨店に相当する店にも設置されている可能性が非常に高いと思います。体験こそできませんでしたが、お膝元の国スイスの街中でクロス・オ・マットの存在を確認できてひとまず満足した筆者でした。
翌朝、デュッセルドルフへ発つべく私はチューリッヒ国際空港に向かいました。チェックイン、出国審査を終え出発時刻まで余裕のあった私はここでも「もしかしたら…」という淡い期待を胸にトイレに向かいました。一般向けトイレには予想通り普通の便器が設置されていましたが、その隣の多目的トイレの扉を開いた私を待ち受けていたものは…。
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白を基調にした清潔感にあふれる空間にそれは佇んでいました。壁掛け式の便器のせいか学生寮や昨日の商業施設に設置されていたものと比べてすっきりとした印象のデザインになっており、整然としたトイレスペースを演出しています。
「ここなら故障なんてことはないだろう」とはやる気持ちを抑えつつ心静かに便器に腰掛けます。一呼吸置き、クロス・オ・マットのトレードマークともいえるタンク脇のスイッチに肘を当てます。すると…。
「ギュイーン」
シャワートイレDⅠで聞き覚えのある勇ましいモーター音を聞いてまもなく私のお尻は水を感じました。そう、ようやく私は実働するクロス・オ・マットに出会ったのです!
現在日本で発売されている温水洗浄便座とクロス・オ・マットとの違いはおそらく洗浄に使われる水量の違いが元にあるのではないかと思います。少ない水量をカバーするためにノズルを動かしたり水流に工夫を加えたりしている日本製品に対して、こちらはそういった仕掛けを用いずに豊富な水量でしっかり洗っているという印象を受けます。使っていると日本製品よりも水が当たっている範囲が明らかに広く、これなら可動式ノズル等も必要ないなと感じさせる洗い心地でした。また、豊富な水量で洗うため日本製品で水圧を強めにしたときに感じる刺されるような感覚もなく、あくまで水の当たりが柔らかなのも好感が持てました。
一通りクロス・オ・マットを堪能した後ゲートに向かい、チューリッヒを離陸。約1時間のフライトの後、飛行機はいよいよデュッセルドルフに到着しました。
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飛行機を降り、入国審査へ向かう通路を歩いていたところでトイレを発見。ここでももう一度クロス・オ・マットを堪能しようと外開きで自動ドアという珍しい扉を開けて多目的トイレに足を踏み入れます。
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昨日の商業施設にあったタイプの壁掛け便器版といったデザインの製品です。使用感についてはチューリッヒ国際空港にあったものとほとんど変わらないものでした。チューリッヒではとにかく使用することばかりに気を取られ、細部を見る余裕がなかったため、こちらでしばし細部を観察します。トレードマークであるタンク脇のスイッチにはドイツ語、フランス語、イタリア語、英語の4ヶ国語で「押す」と書かれています。この4つの言語を公用語としているスイスの製品らしい配慮ですね。また、ノズルも前述のシャワートイレDⅠと同じく重厚感あふれる金属製で、類まれな洗浄力を予感させます。意外なことに乾燥用のエアダクトにはふたは付いていませんでした。
全体を通して、日本の温水洗浄便座が小技がふんだんに盛り込まれたハイテク製品のようなのに対して、クロス・オ・マットは重厚かつ実直な使用感をモットーとするヨーロッパの実用品といった印象を受けました。それゆえに機能も洗浄と乾燥に絞り、操作方法も極めてシンプルなのだと思います。可動式ノズルや室内暖房、そして音楽再生と代を追うごとに多機能化していく温水洗浄便座を見てきた日本人からすると、洗って乾かすという基本に徹し、それから何も足さずそして何も引かないという「変わらない良さ」を訴求するクロス・オ・マットは新鮮に映ります。
しかし、残念なことにスイスのクロス・オ・マット社は今年の8月30日に倒産してしまったようです。同社のWebページからは今回の倒産の経緯と今後のサポートについての文書以外のコンテンツが見られない状態となっています。その文書によると、倒産の原因となったのはAquariusと名づけられた新製品のトラブルのようです。発売当初に詳細をWebで確認した記憶ではこれまでの同社の製品から大きく構造を変え、ワイヤレスリモコンによる操作など大幅なハイテク化が図られた商品でした。同社にとって社運を掛けた製品というべき物だったようで、多額の開発費をつぎ込み完成にこぎつけたのですが発売後に様々なトラブルが露呈し、それに対するサポートや製品の構造変更、そしてトラブルによる製品の信頼低下からくる販売台数の減少が経営を圧迫していたそうです。今後は20名の従業員からなる新会社を設立し、製品のアフターサービスに努めるそうです。しかし、同社の製品が今後消滅する運命にあるかというとそうではなく、同社が設立したイギリス法人は今回の倒産の影響を全く受けず、イギリスでの製品の製造・販売を続けるそうです。
前述の文書によると同社の創業以来50年の間、スイス国内には10万台のクロス・オ・マットが設置されたそうです。スイスの人口は約750万人だそうですから大まかな普及率として単純に台数を人口で割ってみるとたったの1.3%の普及率ということになります。日本の二大便器メーカーとは違い同社の規模は中小企業というべきものですから拡販が難しいという事もあるのでしょうが、私はそれ以外にクロス・オ・マットがスイスの消費者の間で医療用の製品という認識をされていてなかなか一般家庭に浸透しなかったという要因も考えられると思います。同社もそれを認識していて、一般家庭に取り入れてもらうことを狙っての試みが近代的な操作性とより洗練されたデザインを持つ新製品Aquariusの開発だったのではないかと思うのです。同社の更なる飛躍への期待を背負ったこの製品が同社の終焉への引き金を引くことになってしまったのは誠に皮肉な話です。
同社の倒産により念願のクロス・オ・マットとの対面を果たせた喜びも少し複雑なものとなってしまいましたが、イギリス法人は引き続き製品の製造・販売を続けるとの事なので、こちらに将来の拡販の望みを託したいところです。今回実際に製品を体験して、この洗浄力が体感できなくなるのは大きな損失だと心から感じました。イギリス法人には着実な事業展開を願ってやみません。
それではまた
<今回紹介したトイレ>
チューリッヒのスーパーマーケットMIGROS
チューリッヒ国際空港
デュッセルドルフ国際空港
<関連リンク>
スイス クロス・オ・マット社
今回の倒産の経緯について述べられています。アフターサービスを担当する新会社は新製品Aquariusをサポートしない旨が述べられていますがオーナーは今後どうなるのでしょうか。
イギリス クロス・オ・マット社
現在も営業しているイギリス法人です。
GEBERIT BALENA 8000
スイスのGEBERIT BALENA社の洗浄機能一体型便器です。Aquariusがまだ販売されていればライバルとなっていたであろう商品です。この会社は一体型だけでなくシートタイプやTOTOのトラベルウォシュレットそっくりの携帯用お尻洗浄機も販売しています。