京品ホテルに泊まった


12月30日、三谷幸喜の『THE有頂天ホテル』がテレビでやっていた。
その日、私は京品ホテルの部屋を予約した。
元日から1泊。
「料金は僕が予想していたより四十パーセントも安かった。」
京品ホテルはちょっと前から気になっていたホテルである。
坪内祐三と福田和也の対談『暴論』(扶桑社2004年)で、このように描かれていたから。

坪内 オレ昔から、ホテルに「館詰め」になるって憧れなんだよ。でも、なぜか一度もなったことないの、ははは。
福田 坪内さん、原稿早いから。
坪内 だけど「館詰めになりたい」と気になっているホテルがあって…、たとえば品川駅のすぐ向かいの「京品ホテル」。ガイドにも全然出ないんだけどね。
福田 ありますね、なんか小さいホテル。
坪内 謎のしょぼいホテルでしょ。でも、開業1871年(明治4年)って書いてあるんだよ。
福田 帝国が明治23年開業だから、相当古いですよ。というか、東京の近代ホテル史以前なんだけど、それ…。
坪内 それで、こないだ見学に行ってみたら、ロビーなんか古くて狭いんだ。だけど、ピカピカの板張りの床の上に絨毯が敷いてあって、結構シブいの。なんといっても客室の方に向かう廊下に、鉄製のゲートがついていて、それが格好良かったね。

気になっていたが、なかなか泊まる機会がなかった。
その後、出版された坪内祐三の『酒日記』(2006年)には、京品ホテルが3回も登場する。
1回目は、2005年9月26日(月)。

 一時から品川の某ホテルのスペシャル・ルームで『SPA!』の対談。実は二年前、この部屋で某氏と対談を行ったことがあるのだが、この空間を私は密かに気にいっていた。近くにあるPホテルと違って、この某ホテルは、従業員が皆とても感じが良い。いわゆる形式的なサービスではなく、凄く人間味があるのだ。

Pホテルとは、プリンスだろうか、それともパシフィックだろうか?
2回目は、2005年12月1日(木)。

六時半頃、駅前の某ホテルの某スペシャルルームに入る。ここは最近の私のお気に入りの対談場所であるが、亀和田さんをはじめ全員が私以上に気に入ってくれる(しかもこのホテルの従業員が皆、素朴にサービスが良いのだ――東京の街を壊して次々と建てられて行く外資系ホテルに呪いあれ)。下の居酒屋からルームサービスで注文した焼酎や日本酒を飲みながら、常盤軒の駅弁をつまみに亀坪対談。

3回目は、2006年7月7日(金)。

十一時半から品川駅前Kホテルの三階のスペシャルルーム(この部屋を使うのは私は四度目)で、『SPA!』の対談。テーマは「高級駅弁味くらべ」。

坪内祐三は京品ホテルを4度使ったことがあるようで、1度目は2003年ぐらいの対談で、誰とのものなのかは不明。
2度目、4度目は『SPA!』の福田和也との対談だが、それは読んでいない。
3度目の対談は、『エンタクシー』(2006冬)の「倶楽部亀坪」。
これは持っているので引用してみよう。

坪内 麦の吉四六を、瓶で一本ください。それから氷と水を。亀和田さんは?
亀和田 ぼくはレモンサワーを。
支配人 ……レモンサワーといっても、レモンはシロップのものなんです。それでもよろしいでしょうか。
亀和田 全然、構いませんよ(笑)
支配人 では、お持ちいたしますので。
坪内 ……このホテル、とてもいいでしょう。サービスも完璧。ホテルマンも、なんでこんなに?ってぐらい、すれてないんですよ。
亀和田 東京ではあんまり見かけない感じの人たちですね。
坪内 品川駅の真ん前にあるとは思えない静けさだし、ほっといてくれる感じが、決して雑ではないという加減で。しかも食べ物の持ち込みも自由。
亀和田 三階建てで、四階はこの飛び出た「四〇一号」ひと部屋だけ。低層のホテルって今や贅沢ですよね。「KEIHIN HOTEL」って外壁にあるから、当然「京浜」だと思ってたら「京品」なんですね。パンフレットには”SINCE1871”と書かれています。
坪内 帝国ホテルよりも古いですね。日本でいわゆるホテルができたのが、明治二十年頃。明治五年ということはホテルじゃないから、品川宿の旅籠だったのかな。
亀和田 横や後ろには、品川や高輪のプリンスホテルがあるでしょ。この場所にいまだに残ってるってことはプリンスとも戦ってそうだし。ここも、もうひとつの「いるかホテル」ですね。
坪内 品川駅という立地で、どうやって昔から続けてこられたのかも謎だし、この四〇一号も謎ですよね。エレベーターは三階までしかないから、鉄の扉を開けたところにある階段をのぼってくる。すごく秘密っぽい部屋なんだけど、普段はどんなふうに使われているんでしょうね。
亀和田 謎が多いですよね。

そうなのです。以上のような、「いるかホテル」に泊まったのです。

ホテル内の日本料理屋、居酒屋などは元日は休業だった為、京品ホテルの隣の細長い寿司屋で夕食を食べ、駅前の成城石井で買った日本酒を部屋で飲んだ。
翌朝、正月に京品ホテルに泊まったもうひとつの目的を達成した。
それは、部屋の窓から箱根駅伝を観戦すること。
これまで、箱根駅伝にはほとんど興味がなかったのだが、ホテルの部屋から観戦というのが、モナコグランプリみたいなスタイルがいい。
(スタート前からテレビをつけたのは今回が初めてだった)

すぐに目の前を通り過ぎてしまったが、気分が良かった。
たまには正月から駅伝を観るのもいいものですな。
夏は、屋上でビアガーデンをやっているので行ってみたい。

書を持って街へ出る