自分でお掃除するトイレ

イギリスを含めヨーロッパというとあらゆるところでチップを払う文化が定着していることで有名ですが、一部のトイレも例外ではありません。大きな駅のトイレの多くは有料となっており、入り口でチップ(駅のトイレの場合20ペンス=40円程度だったと記憶しています)を入れて中に入る仕組みになっています。公衆トイレは大都市以外では無料でなおかつ管理が行き届いているものが多いですが、ロンドンなどの大都市に行くと有料のものが多く見られるのがわかります。その代表格といえるのがチップの投入からドアの開閉、そして便器洗浄に手洗いと全ての動作が自動で行えるハイテクトイレです。これだけでは日本のマルチトイレとあまり変わらないように思われるかもしれませんが、このトイレにはハイテクトイレたる更なる秘密が隠されているのです。果たして・・・。



これがそのトイレです。写真で見る限りでもそれほどハイテクという印象はありません。ただ、建物の色合いやドアの脇などに配された紋章(このトイレが設置されている区の紋章のようです)など歴史ある建物の多いロンドン市内に良く映えるシックなデザインです。

コイン投入口と使用状況を示すランプです。ランプが4つ並んでいる中に「空き」を意味するVacant、「使用中」を意味するOccupiedなどおなじみの表現に混じってCleaningという文字が確認できるでしょうか?そう、これこそがこのトイレのハイテクたる所以なのです。実はこのトイレ、毎回使用後に床や便器などが自動的に洗浄・消毒されるのです。つまり全ての利用者が「掃除したて」の清潔さを味わえるトイレということになります。自分で掃除までしてしまうということでまさに究極の全自動トイレというべきこのトイレ、ルーツはフランスの首都であるパリの街に1980年から設置され始めた「サニゼット」と呼ばれるトイレらしく、それが「画期的だ」ということで他の都市に進出し始めているようです。日本でも京都に数箇所同様の機能を持ったトイレが存在するようです。
実は筆者はかねてからこのトイレに関心がありました。初めて知ったのは中学生の頃でしたが、当時はまだ「自動的に洗浄するトイレがある」という漠然とした情報のみで、まだ見ぬその姿に思いを馳せたものでした。その後次第に情報収集をしているうちになんとなく全体像が見えてきたのですが、やはり使ってみないことには・・・。ということで実際に利用できる機会を狙っていたところにこのトイレを発見したというわけです。
さて、それではその憧れのトイレに入ってみることにしましょう。入り口でコイン投入口に50ペンス(100円程度)を投入すると、ドアが自動で開きます。いよいよトイレとのご対面です。

窓がまったく無く、やや暗めの照明のため少々閉塞感を感じましたが、想像していた通りシンプルかつ機能的に作られた空間という印象です。ドアの素材やその側に取り付けられたドア開閉ボタンのメタリックな質感、そして残り滞在時間(20分経つと自動的にドアが開いてしまうようです)を示す赤いデジタル表示など「ハイテク感」のアピールも忘れていません。手洗いから伸びている二つの水栓のうち一つはハンドドライヤーとなっており、もう一つは水栓と石鹸を兼ねています。一体型ではないもののここイギリスでも洗浄~乾燥が手洗い内で一括して行えるシステムが存在していました。ただし、日本のものと違いそれぞれの機能に独立したセンサーがあるのではなく、一度センサーに手をかざすと水→石鹸→水→乾燥の一連の動作を一定時間行うというタイプになっており、前者の方式に慣れた日本人から見ると少し融通が利かないなと感じるかもしれません。床は自動で洗浄するということから見るからに水はけの良さそうなものになっています。ちょっと木村技研の「ナガセルフ」風ですね。と、ここまで見てきましたがまだ肝心な便器をお見せしていません。実はこの便器こそが私がこのトイレを見た際に様々な意味で驚きを感じた部分だったのです。なのであえて最後に触れることにしました。

画像をクリックして拡大してみてください。ある重大なことに気づきませんか?そう、この便器には便座が無いのです。つまり、利用者は便器の「ふち」の部分に直接腰掛けることになります。もちろん便器も毎回洗浄・消毒されますから衛生面では特に問題ないはずなのですが、便座に座ることが当たり前だと思っていた筆者からすると心理的な抵抗は決して小さいものではありませんでした。他のイギリスのトイレでも便座が無い便器というのはこの手のトイレ以外ではお目にかかったことはないのでイギリス人にとっても無いよりはある方が好ましいと思うのですが、日本人と比べるとその点についての関心は薄いのでしょうか。そういえば欧米では便器の腰掛ける部分は冷たいものだという認識があるようで、日本の暖房便座の温もりは欧米の人々にはあまり好意的に受け入れられないという話を聞いたことがあります。
また、もう一つ問題だったのは「全自動」を売りにしているトイレであるにもかかわらず、現代のトイレにおいて基本中の基本である水洗が出来ておらず、前の利用者の使った跡がまだ残っていたことです。今回の画像が真上からのアングルでないのはそのためです。せっかく有料トイレとしては高額の50ペンス(ちなみに筆者が現在住んでいる町にある同様の機能をもつトイレは10ペンスと5分の1の料金です。)を払ってこれでは…、と少し失望してしまいました。このトイレだけの問題だと信じたいですが、本来は快適な空間のためにチップを支払う利用者を裏切らないよう、こういったトイレがまったく無い状態が普通であるべきではないでしょうか。
と、少々メンテナンスにおいて期待はずれの部分がありましたが、それがなければ基本的には快適なトイレとなっています。ロンドン市内は地下鉄の駅などでもトイレが無いところが多く、デパートなどが立ち並ぶエリア以外ではトイレが見つけにくいところが結構あり、そういった場所では重宝すると思われます。しかし普通のトイレと少々使い方が異なるため、まだこのトイレが町に一基しかない私の地元では、使用後にドアが閉まると次の利用者のために洗浄を行うというシステムを知らない人が居るようで、私が使い終わって外に出るとすかさず中に入ろうとする人が居ました。最悪の場合閉じ込められたまま内部で洗浄が行われて水浸しに…、という事態が想定されるだけに今後新たに導入される町では使い方の案内を分りやすくする必要がありそうです。しかし従来のトイレと比べてコンパクトでありながらバリアフリー対応で、なおかつ景観へもなかなか溶け込んでおり、メンテナンスと使い方の説明さえ徹底していれば次世代の公衆トイレと言えるのではないかと思います。
それではまた次週
<今回紹介したトイレ>
ロンドン ヴィクトリア駅付近の公衆トイレ
<関連リンク>
ADSHEL
屋外広告やストリートファニチャー(バス停やベンチ、公衆トイレなど)を扱うイギリスの企業です。今回紹介したトイレを作っているのもこの会社です。公衆トイレなど公共のものをひっくるめてストリートファニチャーと呼ぶということを今回のコラムで知りました。
JCDecaux
世界最大級の屋外広告やストリートファニチャーを扱うフランスの企業です。1980年にパリに登場した全自動トイレ「サニゼット」を開発した企業です。The JCDecaux Group → History → 1980で画像を見ることが出来ます。

衛生陶器愛好家の、トイレ巡礼