お気をつけて行ってきてくださいませ。

今回取り上げること言葉は、私が実際に触れた言葉である。
私は、ある仕事における出張で北陸を目指していた。場所は福井。小松空港よりバスで小松駅へ。そこから特急という算段だ。都営浅草線経由京浜急行の特快、羽田空港行きに乗車していた。この電車にて、事件は起こった。


なんと駅でもないのに地下で突然、電車が停車したのである。「人身事故発生、人身事故発生」車内アナウンスが事情を告げている。
私は猛烈に焦った。飛行機の出発時刻に間に合わないのではないか、という不安があったからだ。飛行機なんて、一日にたくさん出ているものではない。本数も限られている。
引き続き流れるアナウンスによると、これから警察による現場検証が行われる。だから空港へ急ぐ者は、品川より山手線にて浜松町までいき、そこからモノレールという振替輸送ルートにて急がれよ、という。
てなもんだから、あわてて品川から浜松町へ向かい、モノレール駅へ走る。しかしこの時点で飛行機出発の30分前。ふと不安になって「間に合うでしょうか」とモノレールの駅員さんに聞いてみる。すると「タクシーでも無理だろうねぇ…」
私は再び熾烈に焦った。
焦っているうちに、よくわからないが空港に行かねば何も始まらないと思い込み、モノレールに乗り込んで空港を目指した。乗り込んだモノレールにはおびただしい人の数。みんな焦っているのかと思えば、そうではない。漂うのは「これから地方に旅立つぜ。わくわくするんだぜ」という雰囲気。どうも人身事故の影響を受け焦りを募らせている人居ない様子。もっと利口な別ルートがあったのだろうか。そう思うといかんともしがたい気持ちに襲われる。加えてモノレールの各駅停車的な雰囲気にやられて、私の焦りはピークを迎えた。
このままのんびりとした雰囲気の中でただ空港まで行くのは御免だ、と私は携帯電話を取り出し航空会社の窓口に電話をした。で、事情を話した。「あの、すみません。○○分発の○○空港行きの飛行機をとっているのですが…」すると受付の人は「チェックインはすまされましたか?」とやさしく語りかけた。
私は少し憤慨した。もともと都営地下鉄浅草線から京浜急行経由直通の羽田空港行きの電車に乗り込んだのだ。メリットは直通。なのだから、チェックインは空港でやるに決まっているではないか。人身事故だというから、あわてて踵をかえすようにモノレールに乗り込んだというのに、にもかかわらず、モノレールの改札付近で、「おやこんなところにチェックインの機械がありますね。ついでですから、チェックしてしまいましょうかね」なんて悠長に構えているとでも思っているのか。なんてこの瞬間に言語化できるほど私は頭がよくないので、総合的に感覚的に「イラ」っときてまま「いえ、していないです」と答えた。すると、受付のお姉さんは「あー」といったまま、電話が切れた。「!!」私は何事か、と思った。
なんてことはない、駅が地下に入ったのだ。だから携帯電話の電波が切れたのである。なんだかよくわからないが、地下を通ったりするのだ、東京モノレールってやつは。
地上に戻るのを待って、再度電話。「先ほどお電話したものですが…」というと「すみません。担当が替わりましたので、もういちどご用件をお教えいただけますか?」いろいろと思うことはあったのだけど、焦りすぎて心の中で「ギャフン」と思うことに集約しながら、再度事情を説明した。
「かくかくじかじか」で、ようやくさきほどのチェックインの話まで話がたどり着いたら「もうチェックインの時間が過ぎていますので無理です…」といわれてしまった。ぐわぁ。言いたいことはあったのだが、ここでこの航空会社を代表して私と応対してくれているこの女性の方に怒るのは筋違いというものだ。人身事故を起こしたのはこの航空会社ではない。しかしこのあとどうしたらいいのか、困っていたら、近くの空港への便や、はたまた別の航空会社の飛行機を探してくれるという。ってそこらへんまで話していたら、また電波が通じなくなる。またもや「ぐわぁ」という心持。
電波の届かないモノレールで考える。教えてもらった次に出発する飛行機は、先方に約束していた到着時間に、ようやく出発するような時間帯。そこから90分は見ておくべきだろう。今回の取材には、写真撮影も重要なミッションであり、さらに屋外での撮影も含まれているので、太陽が出ていてくれないと困る。だから逆にカメラマンだけ先に行ってもらって、日が出ていないと撮影できない部分は、撮影しておいてもらう、というのもあるが、このカメラマン今回の仕事が初仕事であり、待ち合わせをしている某北陸の駅で顔合わせとなる。だけに、いきなりそんなことを頼むのはなんだか、という気もするし、それよりなにより先方の負担が大きすぎるし、少なくともそれはこちら側の都合であり、よいわけが無い。じゃあ近くの空港から特急とかで最寄り駅に行くとなるとどうだろう、とりあえず携帯電話で検索をしてみる。駄目だった。空港から電車で2時間以上かかる。うーん、参った。万事休すか、と思いきや閃いた。
そもそも東京から電車は駄目なのか?
そうだ、私は飛行機に乗るため、北陸での約束の時間まで3時間以上残して、羽田に向かうモノレールにいるのだ。飛行機よりは早くつく可能性は本当にないのか、そう思い、再度携帯電話で調べた。そうしたら、あった。
新幹線と特急の乗り継ぎで、最寄り駅に約束時間ぴったりに駅に着く。そこからタクシーで行けば、遅刻を最小限に抑えることができる。これだ。これにかけるしかない。
そう思ったとき、すでにモノレールは羽田空港第一ターミナルビル駅についていた。ちょうど反対側には浜松町行きのモノレール。速攻乗り換えて、浜松町を目指す。東京駅まで戻り、東海道新幹線で米原まで行き、特急電車で北上。これが最短だったのだ。
東京駅へ戻る中、航空会社の人に、「電車で行くことにした」と、連絡しておくことにした。購入した航空券の行方も気になったからだ。電話すると、「すみません、担当が替わりましたので、もう一度ご用件をお聞かせいただけませんでしょうか」といつものやつ。
「フッ…」と心の中で思う。私はもう、動じない。
手馴れた感じで現在置かれている状況について話すと、「その件は引き継いでおります。下町貴族さまですね。」との返事。「やるなぁ」と思いながら「先ほどの件ですが、新幹線で移動することにしましたので、結構です。」「左様でございますか。下町貴族さま、下町貴族さまは往復の航空券をご購入なされておりますが、帰りの便はいかがいたしましょうか。」とのこと。実際問題現在のこの問題を解決することに躍起になっていて、ぜんぜん、その先のことは考えていなかった。「往復で買ったんですが、行きだけキャンセルすることも可能なんですか?」「はい。で、下町貴族様、こちらご提案なのですが、帰りの航空券もキャンセルいただいてですね、新たにより割引のある航空券を新たにご予約されてはいかがでしょう。」私は感動してしまった。これだけ航空会社に迷惑をかけておきながら、さらに私にとってプラスになる提案をしてくれるなんて…「じゃあお願いします」と即答。その後航空券予約の手順を聞き、最後に「下町貴族さま、今回はお役に立てず、申し訳ありませんでした。お気をつけて行ってきてくださいませ。」
私は泣いた。心で泣いた。そして心の中でスタンディングオベーションした。電話を切り、戦いが終わり、脱力状態のまま浜松町へ向かう車内、飛行機が滑走したり格納されたりするのであろうか、やたら広いコンクリートの空間を眺めながら、心の中で「お気をつけて行ってきて下さいませ」と呟いてみた。そしてにやけては「ホスピタリティ」を。
浜松町に着いた。私は京浜急行の切符と振り替え輸送の券しか持っていないことに気づいた。しかしここは東京モノレール。事情を話して通してもらうしかない。急いで新幹線に乗らねばならぬのだ。
近くにいた駅員に「振り替え輸送で羽田空港まで行ったのですが…」というとその駅員「これ…これ…」と意味不明の言動。指をさしているのは、自動改札を通過せずに外に出られる関係者用の通路。歯を食いしばりながら「日本語話せや」と心でつぶやき、航空会社との対応の違いを嘆き、浜松町駅のみどりの窓口に吸い込まれていった。
■このとき食べた駅弁
井筒屋 てき重(加熱式)
・・・新幹線の中で、先方に事情を話し、
約束した時間ちょうどに最寄り駅に着く由を説明し
承諾いただいた後、急に腹が減ったので駅弁を喰らいました。
(1)こんな箱でした。
DSC00179.JPG
(2)箱を開けると・・・
DSC00180.JPG
(3)ホスピタリティに敏感だったので、こんなところに反応しました。
DSC00181.JPG
(4)なかなかおいしかったです。
DSC00182.JPG

名言集