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2006年4月 5日

デザインコンシャスの魅力と弊害

デザインされたものに囲まれた空間というものはなかなか魅力的なものです。しかし、工業製品である以上実際使いにくいものはどんなにデザインが美しくても魅力は半減してしまうのではないでしょうか。実際の見た目の美しさと実用性の高さを兼ね備えたデザイン、私達の身近にある製品にはそんなデザインが求められているのではないでしょうか。


今回紹介するトイレは非常に素晴らしいデザインを持つ反面、実用上の弊害を感じずにはいられない部分が見受けられました。ちょっと検証してみることにしましょう。


ここは東銀座にある日産本社ギャラリーのトイレです。以前は本社ビルの正面玄関にただ車が置いてあるだけと言った雰囲気でしたが、数年前にショールーム全体が白とシルバーを基調にした非常に明るい雰囲気のインテリアに変わり、今ではすっかりこの手のショールームとしては最も凝ったものに変身した感があります。ちょうどカルロス・ゴーン氏がCOOに就任してから日産の車のデザインが最もぶっ飛んでいた頃(生産中止になったプリメーラや現行マーチなど)の新装オープンだったと記憶しているのでこれもゴーン氏の意向なのかもしれません。トイレの入口もこの通り統一感のあるデザインとなっています。



入ってまず驚くのがこの手洗いカウンターです。吐水・石鹸が一体になったタイプで初めて目にする形ですが、メーカーを特定できる部品が見当たらなかったため既製品なのかどうかさえ分からずじまいでした。しかしここまで全面白という徹底振りはさすがですね。カウンターが吐水口と同じ高さにあるためカウンターが水で濡れにくく、紙袋なども安心して載せられるという機能的な利点もあり、この部分はデザイン的にも機能的にも合格ではないでしょうか。欲を言えばこのデザインで乾燥機能まで包み込んでいるとより未来的な印象が増すと思うのですが、以前に指摘したとおり実用的でないと判断したのでしょうか。



次に驚くのはこのかなり思い切った形状の小便器です。こちらのサイトで「受けますよ型」と定義されている小型で便器の先端が斜め上に向かってせり出しているタイプです。ヨーロッパではかなりポピュラーな形式らしく、実際この便器も海外製でした(メーカー名失念)日本の一般的な小便器では壁の部分を狙って用を足すのが自然ですが、このタイプは壁の面積が小さく便器の先端がせり出しているためどちらかというと便器の底部、つまりトラップ部分を狙う形になります。使ってみると見た目から受ける印象よりも違和感は少なく、自然に用を足せます。しかし、大人の身長には問題なくても小さい子供にとっては受ける位置が高すぎるかな、という点が気になりました。このように小便器のほうが様々な体系に対応できるかどうかが疑問ではありますが、照明が内蔵された壁が両サイドにせり出すことによって明るさとプライバシー両方の確保に役立っているなどこちらもなかなか好印象です。



問題はこちらの個室です。先ほどまでの手洗いカウンターや小便器と比べると作りも普通なのですが、一つ工夫が感じられるのがドアの作りです。右の画像のように壁とドアがほぼフラットになっているのです。使用中でなくても常にドアは閉まった状態になっており、外から見るとドアが壁と一体化したように見えて美しいです。このようにデザイン的には良いのですが、問題はこの扉の開き方です。常に閉まっているタイプのドアの場合は外開きにするのが一般的ですが、そうするとドアを開くための取っ手が必要になります。壁のように見えるというデザイン上の一体感は若干損なわれてしまうわけです。そこでこのトイレではドアの中央付近に支点があり、そこを中心にドアが回転するという構造がとられています。以前に紹介した前に立った人を軸に一回転するタイプとは違いドアの形状は一般的な板状のもののため、人のほうが動く必要があります。しかしこの動く量が半端ではなく、便器から扉までの距離が普通に用を足す分には十分ではあるものの、この比較的幅広な扉の回転半径としてはギリギリにあるようで、扉を閉めるために人は一度便器の横に避難する必要があります。この扉以外は特に工夫がなく、その工夫を施したはずの扉も実用上は不便、ということで残念ながらこの個室には辛い評価をせざるを得ないでしょう。


このように魅力的なデザインに囲まれた素晴らしいトイレであるにも関わらず、個室部分の使い勝手をデザインで少々犠牲にしてしまった印象があるのが残念なところです。扉の構造にもう少し工夫があればデザイン性重視のトイレとしてはほぼ満点というべき魅力的な空間を作り上げていたと思われるだけに非常に残念です。やはりデザイン性にこだわる際は十分な実用性を確保することも忘れないでいただきたいものです。


それではまた次週。


<今回紹介したトイレ>
日産本社ギャラリー
東京メトロ日比谷線、都営浅草線東銀座駅下車


<関連リンク>
ウタリクリエイツ筑波研究所
世界各国のトイレがご覧になれます。ヨーロッパ諸国のページを見ると「受けますよ型」のシェアの高さに驚きます。


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