私は物心ついたころから多機能なものが好きでした。身近な文房具なら一本に何色ものインクが入ったボールペンであったり、鉛筆削り機能がついた筆箱などにあこがれていましたし、家電製品もボタンの数が多いもの、言ってみれば操作が複雑なものを好んでいた記憶があります。このことは当時から関心を持っていたトイレ関係の製品についても同じで、海外メーカーの洗練されたデザインの便器よりもむしろ日本の温水洗浄便座などといった多機能でハイテクな製品に私の興味が行くのは自然な成り行きだったのです。さて、私が幼かった頃に輝いていた便器や便座については過去に何度か触れていますので今回は少しだけ視点を変えて手洗い器に関する多機能製品についてのお話です。先日久々にこの製品のことをふと思い返しましたが、「多機能」であることの意味を今再び問われたような気がしました。
手洗い器になくてはならないものといえばなんといっても水栓です。私が幼かった頃にはまだ手動のものも多く残っていた記憶がありますが、ここ十数年で一気にセンサー化された印象があります。初期のセンサー式水栓はもちろん水栓としての役割のみを持ったものでしたが、程なくして登場したのが今回話題の中心にする多機能型の水栓というわけです。創り上げた製品にさらに改良や付加機能を加えていくという手法は日本の工業製品が得意とする分野であるとよく耳にしますが、この製品も間違いなくもその一つでしょう。
おそらくこの製品の開発者は「センサーによって水栓の開け閉めは人間の手による操作を必要としなくなった、まだまだ自動化できるところはないか」と考えたのではないでしょうか。考えてみると結構答えはシンプルです。人間が手を洗う際に取る行動は「水で手を洗う」「石鹸をつけて洗う」「石鹸を水ですすぐ」「手を乾かす」以上の4つ、そのうち最初と三番目の行動はセンサー式水栓によってすでに自動化されています。それでは二番目の石鹸をつけるというプロセスは、というと水と同じように液体を出せばいいわけですから水栓と同じようにセンサーを用いれば自動化はそう難しくないはず。さらに四番目の手を乾かすという行動もすでにこのときには手をかざすと作動するハンドドライヤーが存在しているのですでに自動化が達成されていたともいえます。
以上のことから完全に手を洗うという行動を自動化するためには石鹸を出す装置を自動化しさえすればいいということが分かります。しかし、開発者はこのとき「完全なる自動化」を狙ったのかも知れません。水栓に石鹸を出す装置を抱き込むことに飽き足らず、なんと水栓内にハンドドライヤー機能まで包み込んでしまったのです!確かに洗った手をその場で乾かすとなればわざわざハンドドライヤーがある場所(トイレ入り口そばの壁に掛かっていることが多いですね)まで濡れた手のまま行くわずらわしさがなくなり、より便利なはずです。ここに「完全なる自動化」が達成された、というわけです。
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上の画像がその製品ですが、これはINAXの製品です。こちらはTOTOの同じような製品よりもさらに見かける確立の低い製品になっています。登場間もない頃ですら公共の施設などで見たことはあるかないかというレベルです。ちなみにTOTOの製品の方はこれよりも横幅が広く伸びやかなデザインをしており、上のINAX製品よりも優雅な雰囲気を持っています。残念ながら今のところ画像を持っていないため後日見つけ次第・・・、ということにしたいと思います。
さて、この製品が世に出始めた頃まさに私は多機能好きな幼少期を送っていました。そんな私がこの製品に注目しないわけがありません。その頃完成したばかりのJR横浜駅のチップ制トイレはそんな私のまだまだ狭かった行動範囲の中で最もまばゆい輝きを放つトイレの一つでした。生まれて初めて出会ったチップ制トイレというシステムや、当時はビルやホテルでもまだまだ浸透していなかったウォシュレットのしかも最上級機種であるGXⅡがあろう事か汚いトイレばかりだと思っていた駅のトイレに設置されていることに対して当時の私は大いに衝撃を受けたのです。その後もしばらく私の中で「別格のトイレ」という地位にあるトイレでした。そして何を隠そうこの手洗い器もウォシュレットほどではないにせよ、このトイレが「別格のトイレ」であるとの印象を確実なものにしていたアイテムの一つだったのです。
「手洗い器の中で乾燥までできるなんてすごい!」と当時の私はその多機能ぶりに感動しました。そしてせっかく出会ったのなら一通り試してみないことには・・・、と水栓・石鹸・そして乾燥と一通りの工程を試してみることにしたのです。水栓はすでにセンサー式慣れはしていたので普通に使うことが出来ました。石鹸も今までの手洗い器からニョキッと生えた容器(容器下にある棒を手のひらで押し上げて使うあれです。)が出すときに力が要ることに少々不満を感じていた私には満足のいく使い心地でした。そして注目の乾燥は・・・、となるとこれは少々期待はずれ。当時の単体のハンドドライヤーも現在出回っているものよりも明らかにパワー不足と感じられるほどですが、こちらはそれに輪を掛けて心もとなかったのです。石鹸の出し口、水栓と温風吹き出し口が同居したつくりのため、吹き出し口が大きく取れなかったのが原因だったのかもしれません。
それでも当時の私はその多機能への挑戦のようなものに対して淡い憧れを持っていたのですが、改めてこの製品について思い返してみると一見便利そうでも実はあまり実用性が高くなかったという類の機能だったのかなとも考えられます。もちろん手洗いの一連の行動を手洗い器の中で完結させてしまおうという発想は非常に合理的だと思います。しかしその機能を達成するために不可欠な乾燥機能がそれほど実用的ではないとなるとその機能はあってもなくても変わらないものとなってしまい、結局無駄な機能と見られてしまいます。その結果機能的には退化したように見える乾燥機能を落とし水栓と石鹸のみを一体化した水栓が後に登場しましたが、こちらのほうが機能的に無理をしている部分が少ないのか良く見られることになりました。多機能化することの難しさを改めて考えさせられました。
とはいえ、私は手洗い器で全ての流れを完結させてしまおうという考え方には今だに捨てがたいものを感じています。それはどうやらTOTOも同じのようで、このコンセプトの新製品を登場させています。今度は手洗い器のボウル部分と一体となったデザインとなり、水栓と石鹸がボウル奥に、乾燥部分が手前に配置されることにより今までより無理のないレイアウトが可能になっています。乾燥の温風も最近のトレンドである高速タイプになり、今度こそ期待が出来るかもしれません。こちらの製品も発見し次第レポートしようと思います。
それではまた次週。
<今回紹介したトイレ>
上越新幹線E1系「とき」車内
<関連リンク>
http://www.com-et.com/online_cat/zone_0001_htm/0001_070403.htm
TOTO オートボウル製品情報
90年代初めの多機能水栓の遺志を継ぐモデルです。