これまでにも何度か軽く触れたように最近ではトイレにもデザイン性が求められるようになってきていますが、トイレにデザインという概念を取り入れたのは決して最近のことではありません。80年代末から90年代初めにかけて、INAXでは世界の優れたデザインの製品を扱うXSITEを展開したり、浴槽・洗面・便器など水回りをトータルコーディネートするINAXオリジナルのXstageと呼ばれるブランドを投入しました。対するTOTOもZAZAと銘打ってデザイン性の高い製品を送り出していました。ちなみに実物をご覧になりたい方は以前ina+X=INAXの回で取り上げた新宿パークタワーに行くことで実際に使用することが出来ます。7階(上のリンク先の記事の40万円超の便器もその一つです)はXstage、6階はZAZAで統一されています、興味のある方は是非。
しかしながら上に紹介したような製品は40万円の便器からも想像されるように価格が考えられないほど高く(もう一つ参考に現在のXSITE製品のラインナップもどうぞ)、まさに限られた人のための製品といった雰囲気でした。
そんな中、TOTOは「デザイン便器をみんなのものに!」と考えたのでしょう、上に紹介した製品ほど凝ったものではないものの明らかに普通の便器よりもこだわりを感じさせるデザインで、しかもお値段はそれほど高くないというデザイン便器を世に問いました。しかもデザインの方向性の違う3つのシリーズを同時に展開し、そのそれぞれに便器から洗面そしてトイレ回りの小物までトータルでコーディネートできるように豊富な製品ラインナップを持たせたのです。今回はそんなデザイン便器三兄弟を振り返ってみましょう。
TOTOは三兄弟にそれぞれデリシア、ロマンシア、エバジオンという名を与えました。デリシアにはどっしりとした重厚感のあるデザイン、ロマンシアには丸みを帯びたキュートな印象のデザイン、エバジオンには両者のちょうど中間といった印象で程よく重厚感があるが重過ぎないエレガントなデザインが与えられました。男性的なデリシアに対して女性的なロマンシア、エクセルカラーが似合うデリシアに対してパステルカラーが似合うロマンシアといったところでしょうか。エバジオンはこの分類でもまさに中間といったところで、ユニセックスでなおかつファンシーカラーが似合うといった雰囲気でした。
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両極の中間にある存在というとしばしば中途半端と取られがちですが、それを避けるためかエバジオンシリーズには他の2シリーズよりも凝ったデザインが取り入れられていました。写真は小便器ですが大便器にもこれと同じように正面の中心部に縦に窪みを入れるというデザインがなされていましたからこれがエバジオンのトレードマークなのかもしれません。生産に若干手間が掛かりそうなデザインですが他の2シリーズにはこういった演出はなされておらず、エバジオンだけのものです。どことなくヨーロッパ製の便器のようにも見え、それがこのシリーズ独特の「バタ臭さ」を醸し出しています。よく考えてみるとデリシアやロマンシアなど意味は分からなくともなんとなく耳に覚えのある語感の他のシリーズに比較してエバジオンというネーミングはそこからすでにぶっ飛んでいる気がしなくもありません。幼い頃の私はその「ぶっとんだ感」から3シリーズの中ではエバジオンが一番のお気に入りでした。しかし、そのバタ臭さが受け入れられなかったのかエバジオンは3シリーズ中街で見かける頻度が最も低かったと記憶しています。
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最近はめっきり減りましたが、一昔前はあらゆる種類の施設のトイレで姿を見ることが出来ました。やはり同時期の普通のTOTO製品よりもゴージャスに見えたものです。しかし全ての製品を同じシリーズでそろえているというケースはあまり多くなく、特に大便器は各シリーズともレアなアイテムではないかと思われます。逆によく見られる製品は上の写真(我が家のトイレです・・・)にあるロマンシアの洗面器とすそ広がりで直線的な形をしたデリシアの小便器が挙げられます。これらは今でも時々目にすることがあります。小便器のほうは狙う範囲が狭くやや使いにくい気もしますがデザインは今見てもなかなかスタイリッシュですし、洗面器はコンパクトなサイズの割りにボウル部分が広く深いためきれいに円を描くデザインの素敵さのみならず機能的にも優れているところからよく選ばれていたのかもしれません。
と、このように最近では一部の製品を除いて目にする機会の減ってきた3種のデザイン便器ですが、私はこれらの製品に特別な愛着を感じています。実際にそのうちの一つを家で使用しているというのもありますし、カタログを見たり街で実際に使用してみて全盛期の輝きに触れているということもあります。幼い頃は今のように一人で都内を出歩いたりは出来ませんから時々両親に連れられていく華やかな場所に設置されていたこれらのデザイン便器は本当に光り輝いて見えたものです。当時これが設置されていた施設というとまさにトイレのみならず建物自体が真新しいような場所でしたからなおさらそう見えたのでしょう。
これらのデザイン便器は2006年の今振り返ってみると私達が今考える「デザイン」とはちょっと方向性が違って見えます。最近では無駄なものは省いてすっきり、知的に見えるものが「デザインがいい」となるような風潮がありますが、この当時は重厚に、ゴージャスに見えるのが「デザインがいい」だったのかも知れません。今のすっきり、コンパクトなタンクレストイレ群と比べるとこの三兄弟はどことなく「重厚長大」なのです。それは当時の赤いふかふかのシートを装備した日本の高級車や、食堂車や個室など豪華設備満載の100系新幹線にも通じるような感覚といったら言い過ぎでしょうか。今のインテリジェンスを感じるデザインが魅力的なのは確かですが、私は時々こういった重厚長大感が恋しくなるときがあります。今回は画像が少ないため皆さんと感覚を共有しにくいところが難点だと思っていますので、今後この三兄弟を目撃したら随時この記事に載せていこうかと考えています。今後も幼い頃に感じた衝撃をなるべく忘れずにトイレに出会い、記事にして行こうと考えを新たにしたところで今回はこの辺で失礼します。
それではまた次週。
<三兄弟の近影>
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デリシア小便器とそのロゴです。直線的なデザインが美しいです。神保町の三省堂書店神田本店にて。