今回は以前にも一度やったことのある「回想系」のコラムです。先週まで2週にわたってお送りした「INAX文化都市を訪ねる」を書いている途中に思い出した凝りに凝った企業の文化施設の紹介なのですが、残念ながらすでにその施設はなくなっているため、あくまで「回想」として懐かしむ視点での文章となるわけです。
すでにない施設を紹介することに意味があるかどうかは自分でも疑問ですが、過去にあったと紹介するだけでも充分インパクトのある施設だということ、そして企業がそんな施設を持っていた時代があったのだということを伝えるべく今回紹介することにしました。
なお、ここで紹介する以上、今までの「凝りに凝った」や「インパクトのある」と言った形容はこの施設のトイレに対するものであること、そしてこれから先の文章も主にトイレに関する記述になることを付け加えておきます。展示内容も確かに凝っていたと記憶しているのですが、正直言いましてあまり展示内容は記憶していないのです。
その施設は東京の代々木にありました。この地に本社を構えていた建設会社のフジタが自社ビルの下層階の一部を一般向けのPRコーナーにし、それを「フジタヴァンテ」と名付けました。オープンは1991年3月だったそうです。そういえばこの頃フジタは夕方6時からのニュース(テレビ朝日のステーションEYEだったと記憶しております。)のスポンサーをしており、なかなか凝った企業イメージCMを流していました。子供心に何をやってる会社か分からないけどかっこいいCMだなと思いながら見ていた覚えがあります。当時のロゴは横文字でFujita(Jリーグのベルマーレ平塚<現:湘南ベルマーレ>のユニフォームにこのロゴが付いていました)でしたが、最近はカタカナでフジタのようです。
CM放映などおそらく知名度アップを狙った当時のフジタが作った施設が「フジタヴァンテ」というわけです。ヴァンテはVenteと綴りますが、「ヴァンテ・いつも新しい風が吹くところ」というキャッチコピーからすると風に関係する意味がありそうです。たまたま手元にあったフランス語の辞書を開くと、同じ綴りで発音も同じの形容詞「風の吹きすさぶ・吹きさらしの」という言葉がありました。あまりいいニュアンスでないような気がしますが、他にも風関係ではVent(「風」という意味の名詞、発音は「ヴァン」)やVenter(「風がふく」という意味の動詞、発音は「ヴァンテ」)というのがあるのでおそらくこれらから来た造語ではないでしょうか。
さて、そんなフジタヴァンテの中身はというと、ホールや企画展などを行う展示スペースのほかに地下一階にアミューズメント施設などといった設備がありましたが、行った当時は企画展が行われていなかったことと、アミューズメント施設のほうも小さく特に印象に残るほどのものではありませんでした。しかしながら、ここには非常に印象的なアトラクションが用意されていたのです。そう、それが今だ鮮明に焼きついているフジタヴァンテ一階のトイレなのです!
このトイレ、入り口もトイレの内装も基本的にはオフィスビルだけにモノトーンの落ち着いたカラーコーディネイトがなされています。個室のほうも便器がINAXの斬新な形の便器(こちらによるとINAXがオフィスビル向け製品のブランドとして立ち上げたXSPACEシリーズの一つだと思うのですが、住宅向けのXSTAGE以外の2つのXに関してはINAXのオフィシャルサイトでも情報が見つからない状態となっており、歯がゆい思いをしております。)である以外は特に変わったところはありませんでした。それではどこがそんなにすごいのか、その答えは小便器にありました。
なんと、このトイレの小便器はガラス張りなのです!どういうことかといいますと、このトイレには巨大なガラスの壁があり、それを仕切りで一人が立って用を足せる程度のスペースに区切っています。だから小便器というよりも小便コーナーあるいは小便ブースとでも言った方がしっくり来るかも知れません。そして、それだけで終わらないのがこのトイレのすごいところ。ガラスに向かって用を足すということはガラスの向こうに見える景色がないと面白くありません。それならとこのトイレではガラスの向こうには青々とした植物が目に鮮やかな自然の風景をガラスの向こうに作り上げたのです。まるで自然の中で放尿しているかのようなさわやかさ・・・。
確かに使用感はなかなかよかったです。最初は圧倒されましたが、やはり目の前に広がる緑は魅力的でした。使用後に流れる水もガラス板の両サイドから流れるのですが、この流れ方も左右対称でなかなかきれいなものだったと記憶しています。
さて、こんな驚くべきトイレを持つフジタヴァンテは2000年10月に閉館し、その後このビル自体がフジタのものではなくなりました。現在フジタはこのビルの真向かいのビルに移り、このビルは製薬会社の本社ビルとなっているようです。トイレに妙に凝っていたりと好感が持てる施設ではありますが、経営状態の悪化によりそれを手放さなければならなくなったことは残念です。同時にバブル期の日本経済の盛り上がりとその後の停滞のギャップを否応にも実感させられます。
しかし、気になるのは旧フジタヴァンテのビルにはこのトイレは残っているのかということ。展示施設等は撤去されたと思いますが、トイレに関してはまだ十分実用に耐えるものなのでひょっとしたらそのままだったりして、と淡い期待をめぐらせて見ました。もしそうだとしたら今現在このビルを使用している会社の方はさぞ最初はびっくりしたことでしょう。自分の会社のトイレが自然の中で放尿がコンセプトだなんて夢にも思わないでしょうから。
それではまた次週
<関連リンク>
http://www.dnp.co.jp/museum/fujita/fujita.html
フジタヴァンテの概要について詳しく記述されています。キャッチコピー等の情報はこちらから仕入れました。
http://www.chugoku-np.co.jp/City/00/mon/001120.html
なんとあのガラス張りトイレ市販されていたそうです!広島の百貨店で採用されているとのこと。広島・・・遠い。
東京トイレマップ
かの有名なサイトです。こちらの「トイレの広場」にはフジタヴァンテに関する情報がいくつか寄せられています。どうやら女性用は女性用でかなりすごかったようで・・・。