INAX文化都市を訪ねる(2)

今回は先週の予告どおり常滑文化エリア内にあるもう一つの目玉を中心に書いていきます。もちろん展示されている芸術的な便器やタイルも興味深いのですが、実際に使用することの出来るトイレが現在余りお目にかかることの出来ない貴重な品であればそちらにも興味を引かれるものではないでしょうか?
実は窯のある広場・資料館のトイレにはそれがあるのです。実は私が今回ここを訪れた理由もこれがあるという噂を耳にしたからというのが少なからずありました。ヒントはこの資料館のオープン年は1986年であるということ。果たして・・・。


勘のいい方はお気づきかもしれません。1986年というと伊奈製陶がINAXに社名変更を行った次の年です。つまり、まだまだ伊奈製陶時代からの製品とINAX製品との世代交代がまだ完全ではない頃のオープンというわけです。さらにここはINAXの文化活動、さらにはINAXという企業そのもののPRという目的を持った施設。ゆえにこの資料館のトイレという場所は自社の看板製品をさりげなくアピールするのにもってこいの場所なのです。
そのため、INAXは当時の製品ラインナップのトップに君臨する便器をこのトイレに奢ったのです。それがこれです!

そう、これが当時のINAXの最上級モデル。シャワートイレDⅠなのです!長年改良に改良を重ねながらINAXのフラッグシップに君臨してきたサニタリーナ61,62,63に代わって80年代初期~半ばごろにデビューしたシャワートイレ一体型便器です。スイス製の便器がベースで国産とは一線を画す丸々したデザインが強烈なインパクトを与えるサニタリーナに対し、こちらは直線を基調に端正なデザインになっています。それでいて角は丸められており、なかなか優美な印象です。見た目で驚きなのがその質感の高さ。何しろタンク部も陶器製なのですから!1987年デビューのウォシュレットQUEENの重厚感もすごいですが、それですらタンクは樹脂製です。

まだ多機能化する以前の頃の製品のようで、機能は洗浄、ビデ(INAXではチャーム)、乾燥というサニタリーナ時代から変わらないシンプルなものです。脱臭機能が備わっているのがサニタリーナからの進化でしょうか。座ると最近のモデルよりも威勢のよいファンの音がします。スイッチもサニタリーナの足踏み式から最近のモデルにも通じる便座の脇のコントロールボックスにまとめられましたが、その操作感は旧式の扇風機やラジカセのボタンのそれに近い機械仕掛けな印象で、ボタンで「ピッ!」とやる時代には到達していなかったようです。そういえばTOTOの初代ウォシュレットの洗浄ボタンもこんな感じでした。押している間だけ洗浄または乾燥を行う(だからボタンを離すと止まります)という仕組みにもかかわらずなぜかストップボタンがあるのは理解に苦しむところです。また、便器洗浄のボタンがコントロールボックス内にありますが、こちらは故障中のようで作動しませんでした。しかし、タンクの脇には立派な洗浄レバー(これの操作感もいいです!)が付いているので特に気にする必要もないかな、という印象です。
質感は非常に高いのですが、後継機のDⅡにバトンタッチされる1989年までの間にはライバルのTOTOからはほぼ全ての操作をワイヤレスリモコンで行い、最上級機種では便座までリモコン開閉できるというハイテク満載のウォシュレットQUEENが登場しており、これと比較すると機能面で見劣りするのは避けられず、この製品のモデル末期のセールスは順調なものではなかったのではないかと勝手な想像をしてしまいます。それほど年数は開いていないのにこの違いですから、この当時は電気製品の技術が今のパソコンの進化に近いようなスピードで進んでいたのかもしれません。

とネガティブ面を挙げてしまいましたが、この製品の売りはなんと言っても温水洗浄便座にとって最も重要な部分の性能、そう、洗浄力が優れている点です!噂によると旧機種のサニタリーナは豊富な湯量によって最近の機種でさえも超えられないほどの洗浄力を誇るそうですが、このシャワートイレDⅠもその後継機の名に恥じない洗浄力を誇ります。その洗浄力を予感させるのがこの頑強な作りのノズルです。もちろんノズル本体も金属で、こんなところでも重厚感を誇示しています。ノズルが最近の一体型機の様に便座のすぐ下ではなく、便鉢内にあるところもこだわりを感じさせます。また、ノズルの上の四角い部品は乾燥機能のダクトについているふたです。このふたも今では考えられないほどしっかり作られています。
さて、前置きはこの程度にして使用感のレポートを。これほどの旧機種に座ったことは今までになく、それも伊奈製陶のサニタリーナの血統を継ぐ最高級機種…。ということで若干緊張しながら「シャワー」スイッチを押しました。すると「ギュイーン」という機械音の後すぐに勢いよくシャワートイレDⅠは吐水を始めました。
「おっ!」
噂どおりでした・・・。シャワーの重みが今まで体験した温水洗浄便座の全てと比較しても格上なのです。つまり、湯量が豊富。それでいて決して激しさは思ったより薄い。これには驚きました。正直言って洗浄力だけで言えばウォシュレットQUEENよりも明らかに上であると言えるでしょう。温水洗浄便座の基本的な部分である「洗う」機能がここまで魅力的となると、「おっ!」と思わせるハイテク機能満載のウォシュレットQUEENの存在があっても独特の惚れられる要素を持ち、存在感を最後まで保っていたかも知れません。自分がこの当時にこのどちらかを購入できる経済力があったとしたらやはり迷いに迷っていたでしょう。
今回のINAX常滑文化エリアへの旅での最大の収穫はやはりこれではないかと考えています。何しろ念願の伊奈製陶時代の温水洗浄便座(製品にはINAXマークがついていましたが、これが発売されたのは伊奈製陶時代です。)に座ることが出来たというのは自分の中では大きいです。自分としては最近の温水洗浄便座にない洗浄力を第一に考えた質実剛健な作りに感心しました。また、その洗浄力についてもINAXの製品は最近のものでも私のようなTOTOユーザーが偶に使うと「おっ!」となるようなパワフルな洗浄力が特徴ですが、それがサニタリーナ時代から脈々と続く伊奈製陶~INAXの伝統だということを肌で感じることが出来たのも収穫でした。
この体験に満足した私は世界のタイル博物館で住宅用のタイル(15cm角で一枚210円、安い!と思う)をお土産にして無事帰路についたのでした。
それではまた次週
<今回紹介したトイレ>
窯のある広場・資料館
リンクに詳細なアクセスが載っています。
inaマークとINAXマークの製品が混在(小便器がina、その小便器の洗浄用センサーがINAXなど)していたり、今風の壁タイルに80年代テイストの濃いブルーの丸タイルのインテリアなどシャワートイレDⅠの他にも見所満載です。
<関連リンク>
INAX会社情報
会社概要>沿革と進むと今回の文章で何度か出てきた「サニタリーナ」の製品画像を見ることができます。

衛生陶器愛好家の、トイレ巡礼