ボブ・ディランと吉田拓郎、とみうらじゅん


8月29日の「村上春樹と林家こぶ平(現・正蔵)の神宮球場」でも書いたが、パ・リーグで私が応援しているのは千葉ロッテである。セ・リーグで応援しているのは阪神ではない。だから、日本シリーズはロッテを応援するということになる。
日本シリーズ第1戦を新宿のスポーツ・バーで観戦しようと、友人に呼び出された。
私がそのスポーツ・バーに着いた時、エプソンのプロジェクターがスクリーンに映し出していたのは、濃霧だった。私たちはビールを飲みながら、濃霧を見た。私なんか濃霧しか見てない。
結果は、濃霧のため7回裏1死でコールド・ゲーム。10-1でロッテの勝利。
その後、うどん屋、バッティングセンターに行き、バーに入った。
そのバーには、ボブ・ディランの『時代は変わる』のLPが壁に掛けてあった。
(この日、私が髪を切ったのは偶然である)
バーの後はカラオケボックスに行った。
「襟裳岬」を少しだけ森進一風に歌っている人がいて、それを聞いて私は思った。
「やっぱり、吉田拓郎か」


10月10日の「『エンタクシー』のせいで今回はボブ・ディラン」で、こんなみうらじゅんの言葉を引いた。

 ボブ・ディランを初めて聴いたのは、高一くらいだったと思います。吉田拓郎さんの『気ままな絵日記』という本を読んだら、ボブ・ディランが大好きと書いてあったので、拓郎さんに近づく道の一環としておさえておこうと思って。
『別冊文藝 ボブ・ディラン』(河出書房新社2002年)

『気ままな絵日記』(角川文庫1983年)を本棚の奥から引っぱり出して読んでみた。

 フォーク・ソングとか言うものを、僕が初めて耳にしたのもこの頃(高2―引用者)だった。
 友人の貸してくれたテープに、とにかく、変な声? たいしたことないギター? これでいいのかネと思いたくなるようなハーモニカ? (その頃、僕はホントニ、そう思った)のボブ・ディラン殿の『風に吹かれて』が入っていて……。まあ、ひとつもいいとは思わなかったけど、その友人の語るところによる、ボブ・ディラン・ストーリーには、正直言って憧れた。
 そのうち、どこからか、ハリガネを見つけてきて、写真を見ながら、あのハーモニカ・ホルダーを、必死になって作ったものである。(当時は、まだ市販されていなかった)
 『風に吹かれて』を練習した。ギターも、歌い方まで、ディランの真似をしたっけ。

このあたりのことは、山本コウタローの『誰も知らなかったよしだ拓郎』(ヘップ出版1974年)に詳しく書いてあった。

 そんな時、神庭が(拓郎と翠町中学から同級生だった神庭弘年―引用者)の岩国放送(FEN)をエアー・チェックしたテープを持って、拓郎の家に訪れた。そのテープに録音されていたのが、実はボブ・ディランの「風に吹かれて」だったのである。拓郎にとって、この日がボブ・ディランとの初めての出会いだった。そして、この邂逅こそが自分を運命づける大きな要因になろうとは、まだ拓郎自身も知る由もなかっただろう。
「特別に歌がうまいとも、サウンドがカッコいいとも思わなかったけれど、何か今まで聞いてきた音楽とはひと味違うなって思ってね。一瞬ドキッとしたことだけは確かだよ」
と、やはり拓郎はその日のことを忘れてはなかった。
 それからしばらくして、PPMの歌う「風に吹かれて」が日本でもヒットしてくると、また神庭が音楽雑誌から新しい情報を仕入れて、やおら駆けつける…。
 ≪「風に吹かれて」はボブ・ディランの作った歌であること。ディランはアメリカ南西部のアラバマの貧しい家に生まれ、幼い頃から幾度となく家出を繰り返し、その旅先で音楽にめぐりあったこと。ニューヨークのグリニッジ・ビレッジに出て認められ、「風に吹かれて」の大ヒットで公民権運動のヒーローとなっていること≫などなどである。
 そんな話を神庭から聞きながら、拓郎は合い槌をうつこともできなかった。そうするには自分のディランに関する知識があまりにも貧しすぎることを知っていたからである。しかし、ボブ・ディランの颯爽として、自由の精神に満ち溢れた新しい生き方に、漠然とではあったが、強い憧れと共鳴とを感じている自分に気づいて、拓郎はほのかな眩暈すら感じていた。。

あの吉田拓郎もディランを初めて聴いた時は、変な声だと思ったり、カッコいいとも思わなかったりだったのは、面白い。
山本コウタローはこんなことも書いている。

 聞くほどに知るほどに、拓郎のディラン・ショックはその傷口をひろげていく。風に吹かれてどころではない。拓郎の頭の中で吹き荒れていたのは、まるでハリケーンか台風か、彼は枯れ果てたススキのように今にも吹き飛びそうな自分を感じていた。以来拓郎はディランに心酔し、ディランのレコードは拓郎の奴隷であった。レコードの溝はすっかりスリ切れて、峻険な山脈があっという間に平野に変わってしまったかのようであった。拓郎は少しでもディランの投げかける巨大な影に近づこうと、まるで物怪に憑かれた行者のように、ディランのレコードを聞きまくった。
 この本を書くにあたって、ぼくは拓郎に、
「歌謡曲でも何でもいいから、好きな曲を3曲挙げてみてくれ」
と質問した。もちろんぼくは、かつての拓郎のディラン狂いを知っていたので、多少の予想はしていたものの、答は予想以上のものであった。
「デソレイション・ロウ」「ジャスト・ライク・ア・ウーマン」「アイ・ウォント・ユー」…拓郎はたいして考える様子もなく、3曲を挙げた。どれもボブ・ディランの作品であることは言うまでもない。
「好きな曲は? ってきかれたら、俺はどんな時でも即座にディランの作品って答えるだろうね。理由は別にないんだ。もう恋は盲目っていうか、呪縛された人形のようなのも。そこから離れられないっていうか、もう俺の世界でディランは飛び抜けてしまっていて、好きとか嫌いとかいう対象以上のものなんだよ…」
 ぼくは、そう話す時の拓郎のもどかしげな表情を見て、自分の質問がいかに愚問であったかを知った。

そうとう好きなようである。
『気ままな絵日記』に話を戻そう。
この本の中で、吉田拓郎はディランのことを、ピエロ、道化者と言っている。
吉田拓郎のいうピエロとは、「自らの手で自らを演出出来る者」である。

 僕にとって、ディランほどの英雄はいない。彼が道化者、超一級のピエロであればあるほど、僕は彼に惹き付けられる。

 ボブ・ディラン、最高のピエロ!!
 あの高校二年の大失恋の瞬間から、今日、現在に至るまで、なんら変わることなく、実際問題、イヤになるくらい、彼は僕を刺激してくださる。
 いつだったか、もうホントに、ディランとはオサラバしよう! と思ったこともあった。しかし、結局のところ、無駄なテイコウであった。恐らく、僕は、一生、音楽をやっているか、いないかにかかわらず、彼、ボブ・ディランとは別れられないだろう。
 ボブ・ディラン、超一級の道化者!!
 そして、今、僕は、自分により忠実であろうとして、ピエロの道を歩き始めている……。ディランに憧れ、大学時代家出まで真似して、今、僕は、彼の、フォークなんてチッポケな世界ではなく、より広い音楽界を自由に渡り歩いている生き方、を真似しようとしている……。

ついでに。

ロスアンゼルスで見たボブ・ディランとザ・バンド。ブッ飛んだなあー。あんなのも音楽とか歌って言うのかな。まいったけど、やらねばいかん。
吉田拓郎『明日に向かって走れ』角川文庫1983年

みうらじゅんは高1のとき読んだ『気ままな絵日記』がキッカケでディランファンになっていったのだが、そのみうらじゅんが選曲したディランの2枚組アルバムがある。
「ディランがロック」である。
リストが『ニュー ルーディーズ・クラブ Vol.2 特集ボブ・ディラン ロック・スピリッツの原点』(シンコー・ミュージック1994年春)にあった。
この選曲はスゴく良さそうな気がする。
DISC1
1 トゥームストーン・ブルース(追憶のハイウェイ61)
2 サブタレニアン・ホームシック・ブルース(ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム)
3 サブタレニアン・ホームシック・ブルース(ブートレッグ・シリーズ)
4 我が道を行く(偉大なる復活)
5 マギーズ・ファーム(激しい雨)
6 アウトロー・ブルース(ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム)
7 悲しみは果てしなく(ブートレッグ・シリーズ)
8 ヒョウ皮のふちなし帽(ブロンド・オン・ブロンド)
9 アイ・ウォナ・ビー・ユア・ラバー(バイオグラフ)
10 スーナー・オア・レイター(ブロンド・オン・ブロンド)
11 マイティ・クイン(セルフ・ポートレイト)
12 愚かな風(血の轍)
13 出ていくのなら(ブートレッグ・シリーズ)
14 オッズ・アンド・エンズ(地下室)
15 ハイウェイ51(ボブ・ディラン)
16 イッツ・オール・ライト・マ(偉大なる復活)
17 シー・ビロングズ・トゥ・ミー(セルフ・ポートレイト)
18 リタ・メイ(アルバム未収録)
19 ユニオン・サンダウン(インフィデルズ)
DISC2
1 5人の信者達(ブロンド・オン・ブロンド)
2 親指トムのブルースのように(アルバム未収録)
3 アブソリュートリー・スイート・マリー(ブロンド・オン・ブロンド)
4 ジョージ・ジャクソン(アルバム未収録)
5 いつもの朝に(激しい雨)
6 ネイバーフッドの暴れ者(インフィデルズ)
7 フット・オブ・プライド(ブートレッグ・シリーズ)
8 アンビリーヴァブル(アンダー・ザ・レッド・スカイ)
9 追憶のハイウェイ61(追憶のハイウェイ61)
10 窓からはい出せ(バイオグラフ)
11 ポリティカル・ワールド(オー・マーシー)
12 ジェット・パイロット(バイオグラフ)
13 ビュイック6型の想い出(追憶のハイウェイ61)
14 フランキーとアルバート(グット・アズ・アイ・ビーン・トゥ・ユー)
15 セブン・デイズ(ブートレッグ・シリーズ)
16 こんな夜に(プラネット・ウェイヴズ)
17 見張塔からずっと(ジョン・ウェズリー・ハーディング)
18 ボブ・ディランの115番目の夢(ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム)
19 アイ・スリュウ・イット・オール・アウェイ(激しい雨)
最後に、『元気です』に入っている「親切」より。

ああ今日もまたボブ・ディランの話かい やだね
『吉田拓郎詩集 BANKARA』角川文庫1983年

【『エンタクシー』のせいで今回はボブ・ディラン】
【『ボブ・ディラン自伝』は読めるかな】

書を持って街へ出る