動く快適トイレ
2005年10月 5日[衛生陶器愛好家の、トイレ巡礼] by 木村
6月22日の回ではおもに列車内でのトイレについてお話しました。その中で私は「乗り物のトイレは興味深い」と書きましたが、それはすなわち「乗り物のトイレは快適だ」とイコールでは必ずしもなかったのです。個人的には飛行機のそれに比べると列車のトイレは幾分か安心して用を足せる気がしますが、限られたスペースをやりくりしていることには変わりなく、やはり若干の閉塞感は否めません。
そういえば一昔前の車両のトイレには換気用の窓があり、それが閉塞感の軽減に一役買っていますが、その窓を持ってしても消し難い独特なにおいを放つ個体も存在し、これはこれで快適とは言えません。技術の進歩で窓を設けなくてもにおいの少ない空間を作り上げることに成功はしても、狭く窓がない密閉されたかのような空間が作り出す閉塞感は技術だけではなかなか克服しがたいものです。
そんな中、閉塞感の克服に成功し、なおかつそれをさらに居心地のよい空間に仕上げている列車内トイレを見つけたので紹介します。
小田急電鉄が送り込んだ新型ロマンスカー50000系、久々に登場した先頭部分に乗客が乗れる構造のロマンスカーということで、早くもCMや駅張りポスターなどに大活躍の車両です。始発の箱根湯本駅では先頭車両をバックに記念撮影をする親子も多く、一般の人にとっても話題性のある列車となっているようです。
この車両の見どころは前面展望の復活だけでなく、建築家の手による斬新な内装も忘れてはいけません。何せ愛称がVSE(Vault Super Express, Vaultは英語でアーチ型天井の意味)なのですから。過去のロマンスカーの愛称がLuxury, Resort, Excellentなどの分かりやすいものだったことを考えると、さらにこの車両のデザイン面の気合の入りようが伝わってきます。
そして筆者から見てこの車両の偉いところはトイレもきちんと手を抜かず、VSEワールドを創造しているところにあります。ひょっとすると列車全体を見て最も感動したのはこの部分と言っても過言ではないかもしれません。下の画像はそのVSE車の多目的トイレである「ゆったりトイレ」の内部です。
いかがでしょう、一瞬列車内トイレであることを忘れるようなムードあふれる雰囲気です。列車内全体で木をアクセントに使用しており、それをトイレ内にもふんだんに採用しているわけです。また、一番左の画像では分かりにくいですが、右の2枚の画像から分かるとおり実際の照明は間接照明を効果的に使用し、明るすぎず暗すぎない絶妙な明るさとなっています。また、この温かみのある色の照明は客室内とイメージを統一したもので、ゆっくりと落ち着ける雰囲気を作り出しています。設備も抜かりなく、オストメイトの方用の洗浄器や丈夫そうな作りのベビーベッドも完備しています。
個人的にはこのトイレは最近の列車内トイレのみならず建物内のトイレと比較しても上位にランクされるほど快適なトイレだと思います。客室には凝っていてもトイレは普通・・・、といった車両も多い中でトイレ内も忘れずに客室との連続性を持たせている点に拍手を送りたいです。また、他の多くの多目的トイレとは違い、客室が縦に長すぎないのもポイント高いところです。縦方向のスペースのみ拡大していると足元のみががらんと広い空間になり、あまり落ち着きませんが、これは縦に広いだけではなく横にもスペースを拡大しているため、よりゆったりした印象になっていると思います。
列車内トイレでゆっくりくつろげた経験はこのトイレが始めてです。今までは用が済んだらすぐに出たいものでしたが、このトイレはトイレ内の時間もゆったりとすごせるため、つい長居したくなります。ここでもこのトイレがあくまで客室の延長として考えられたものであることが感じられます。技術でにおいの軽減に成功した今、これからはいかに居心地のいい空間にするかの演出についての工夫が必要になってくるのかもしれません。今後もこういった快適な列車トイレが増えることを願って今回のコラムを締めたいと思います。
それではまた次週
<今回紹介したトイレ>
小田急ロマンスカー 50000系 ゆったりトイレ
3号車と8号車に設置

