ボットンのようでボットンにあらず

汲み取り式トイレについてどのような印象をお持ちでしょうか?私は子供のころ何度か家族旅行で利用した宿の汲み取り式トイレを使うたびにあの穴に落ちたときのことを考えてしまい、落ち着いて用を足せなかったのを覚えていますし、今でも出来る限り避けたい存在です。
汲み取り式トイレ、通称ボットン便所。「ボットン」という擬音語がこのタイプの便器の通称となったのは言うまでもなく出したものが底に落ちたときの「ボットン」という音に由来するのでしょうが、便器に開いた穴が大口を開けてモノを待ち構えている姿と妙にマッチしていることも相まって非常に的を射たネーミングだと感心してしまいます。
しかし、実際の処理方法は紛れもなく汲み取りなのに、水とフラッパー弁によって表面上は水洗トイレと同じように使える簡易水洗便器の存在によって「ボットン=汲み取り」という図式は必ずしも当てはまらないことになります。なにしろ「ボットン便所」の汚物が見える・”おつり”がくる可能性といった不快さを解決しようと誕生したのが簡易水洗便器なのですから。
と、なると「ボットン便所」と呼ばれるゆえんは実際の処理方法よりも人と触れる部分の見た目と使い心地の方が関係していると考えられるかもしれません。簡易水洗便器が実態は汲み取り式なのに水洗並みの快適性を実現しているのに対し、水洗便器なのにボットン便所の要素を持ち合わせた便器が実は存在するのです。今回はそんなトイレにスポットを当ててみたいと思います。


横浜から東京方面に一駅、地味ながらもそこそこ規模の大きい東神奈川駅のそばにそのトイレはあります。国道一号線沿いのため、車で前を通ったことがある方も多いのではないでしょうか。灰色の、いかにもくたびれた印象の公衆トイレが今回話題にするトイレです。
中に入っても灰色の空間が続きます。この時代のトイレであまり派手なトイレも見たことがありませんが「これでもか!」といわんばかりの地味さです。もう少しいい配色はなかったんでしょうか。

小便器コーナーは特に変わったことはないですが、本題は個室の和式便器。見てください!このアングルから見るとまさにボットン便所です。横浜市の中心部からもそう離れていないこの地で、なぜ?
実はこの便器、こう見えても水洗なのです。実は真上から除くと底はタイル張りになっており、常にチョロチョロ程度の水が流れているため、底は清潔に保たれています。便器から底までは1メートル程度でしょうか。このぱっと見ボットンの水洗トイレは例えばいくつも個室を設置する場合、1本のパイプを便器に沿って設置してそこに水を流せば水洗化完了!というお手軽な構造のためか一時は多く見られたそうなのですが、最近ではだいぶ減少してきているようです。
やはり便器一台一台に水溜りを持つ水洗トイレに慣れた現代人からするとたとえ水洗だとしてもボットン便所ゆずりの大きな穴を持つこういった便器は受け入れがたいものがあります。また、小さな子供にとっては転落という切実な危険も潜んでいます。水洗便所の清潔さとボットン便所のユーザーフレンドリーでない特徴がなんとも独特な融合をしているトイレといえます。この「セミボットン便所」というべき水洗便器は日本のトイレの主流が汲み取り式から水洗式に変わるときのいわばミッシング・リンクのような存在と言えるでしょう。その場合、このトイレにも歴史的存在価値があるような気もしますが、やはり利用者サイドとしてはそこにあるのはアトラクション的な価値だけでトイレとしての実用性という部分で評価すると厳しいものがあると思います。
それではまた次週

今回紹介したトイレ
JR東神奈川駅前公衆トイレ
JR京浜東北・横浜線 東神奈川駅西口そば

関連リンク
ボットンではないようでボットンなトイレについてはこちら
2005年7月「素晴らしき簡水の世界」

見るからにボットンなトイレの必需品についてはこちら
2005年9月「サイケデリックうじ殺しワールド」

衛生陶器愛好家の、トイレ巡礼