「有料」の意味

有料トイレを利用したことはありますか?「トイレに入るのにいちいちお金がいるなんて・・・」という意見もありますが、「普通のトイレよりきれいなら・・・」ということで利用する方も結構いるのではないでしょうか。最近JRの大規模な駅に設けられている有料トイレの場合、駅全体がリニューアルされたから有料トイレを設置という流れになっていることが多く、普通のトイレもそれなりにきれいなため、あまり有料の恩恵を受けられないような印象があります。また、有料といっても投入する金額は自由で、なおかつ入り口に人が立っていないときもあるなど有料化について今一つ思い切れていないのではという面もあります。
私は有料トイレに弱い人間です。お金を払う以上何か特別なものがそこにある、という思考が働くからです。常に躊躇なく数分間のトイレ滞在にお金を払えるほど私は気前がいいわけではありませんが、扉の前で少し考えた後、誘惑に負けポケットから財布を取り出してしまうのです。
そんな私と有料トイレに関する思い出で一番古いものとしては、私が幼いころに横浜の相鉄ジョイナス(駅ビル)にあった女性用の有料トイレです。女性用だったため中には入れませんでしたが、入り口から豪華な雰囲気が漂っておりドアの奥に広がる世界に思いを馳せたものでした。これはかなり前になくなっています。
もう一つ思い出深いのは小学校の林間学校で行った箱根乙女峠の入り口にあった有料トイレ。事前に担任の先生から「汚いです」ときっぱり断言されていたので行く前から「どの程度汚いのか」と期待して行ったところ、これが期待を裏切らない汚さ。今にも壊れそうな掘っ立て小屋で、内部は快晴の空の下でも薄暗く、もちろん汲み取り式。なぜか正露丸のようなにおいのする強烈なトイレでした。これには普段トイレに興味のないはずのクラスメイトたちも驚いたようで、しばらくの間語り草になっていました。これでもちゃんと一人50円くらい徴収されたのを覚えています。(旅行の費用にあらかじめ入っていたはずです。)
さて、今回話題の中心にする有料トイレはこの二つのトイレの中間的な存在、つまり一見ごく普通のトイレ。果たして・・・?



ご覧の通り海岸に面したところにあるトイレです。夏になれば海水浴客でにぎわうのでしょう。建物には「有料トイレ」とあります。渋滞で有名な国道134号線でサイクリングを楽しんでいる最中に発見した物件です。この「有料」に引かれて止まってみました。

これが有料トイレの入り口です。有料トイレとしては飾り気のない扉です、右にある装置に100円を入れると開錠され、中に入れます。例によって私はこの扉の前で少し考えたのです。入るべきか、やめるべきか・・・。3分ほど考えたでしょうか、やはり私は入ることにしたのです。私は右側の装置に100円を投じ、中に入りました。

中に入ると入り口からも容易に想像できるようにごく普通のトイレでした。ただ少し変わっているのは和式便器がスターライト製のトルコ式トイレ(便器の四辺から滝のように水が流れます、そのうち取り上げたいですね。)だったことくらいです。また、個室にペーパー完備、手洗いにクリーンドライ(手を乾かすあれです)完備だったのはさすが有料、といったところでしょうか。
しかし、私はあることに気づきました。そうです、ここは海水浴場のトイレなのです。それにしては妙に清潔なのです。海水浴場など海のそばのトイレと言えば清潔感にかける、はっきり言えば汚いものが多いはず。ところがどうでしょう。確かに壁は潮の影響か少々汚れていますが、便器はピカピカ(プラスチック製のスターライトの便器がここまできれいに維持されているトイレって珍しいと思います。)ですし、床にはゴミ一つ落ちていません。豪華さはないですが確かに海水浴客に清潔なトイレというサービスを提供しているといえます。
実際に海水浴に出かけた場合は一度と言わず何度もトイレにいくことになるでしょう。そのつど毎回100円を払うわけにもいかないと思いますが、ちょっと長居せざるを得ない場合、つまり「ここぞ」というときにはおそらくこちらを利用するでしょう。
結論を言うと、こういう有料トイレもありだな、と思いました。このトイレの周辺にも探せば無料公衆トイレが存在するでしょうが、それはおそらくこのトイレほどきれいに保たれていないでしょう。また、大都市の駅のように駅を一旦降りれば周辺の駅よりもきれいなビルや店のトイレなど代わりはいくらでもある、というほど恵まれた状態にはありません。かといって山頂近くなどのようにそこにトイレというものが存在していること自体に価値がある、というほど苦しい状況でもありません。都心部以外のほとんどの地域での公衆トイレ事情はだいたいこんな感じではないでしょうか。最近ではコンビニの多くがトイレを客に開放しているため、一昔前より便利になったと思われます。しかしトイレを目当てにコンビニを探し、やっと見つけて入ったコンビニがトイレなしだったときの絶望感・・・。やはり、トイレ以外の何者でもない、という意味で公衆トイレの存在は安心できます。しかし、そうして見つけて入ったトイレがおよそ用を足す気にもなれないような状態だったときの絶望感もまた計り知れないものがあります。
トイレにお金を払うという行為があまり浸透していないせいか、日本での有料トイレはやや豪華なトイレといった意味合いや山など特殊な場所にあるものというイメージが強く、普通の場所にある有料トイレはあまり普及していません。実際に、筆者も普通のトイレにお金を払うことには抵抗がありましたが、「特別なことはないけど、とにかく管理はしっかりしてます。」という方向性の有料トイレに今回触れてみて、自分がもしそういった危機に陥った場合に非常に重宝するだろうという感想を持ちました。無料で使える快適なトイレの多い都心部よりもむしろ汚いトイレの多い海水浴場や海のそば、周辺に誰でも使用できるトイレが少ない地域などトイレ事情の悪いエリアに集中的に設置されていた方が案外ありがたさに気づきやすいのではないかという仮説を立ててみつつ今週のコラムを終わりたいと思います。
それではまた次週
今回紹介したトイレ
鎌倉七里ガ浜海岸 有料トイレ
江ノ島電鉄線 七里ヶ浜駅より徒歩2分

衛生陶器愛好家の、トイレ巡礼